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銀河フェニックス物語<少年編> 第一話(8) 大きなネズミは小さなネズミ
戦闘機の訓練シミュレーターにレイターが挑戦した。
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三機の小型機が機関砲を連射しながら近づいてきた。レイターは器用にかいくぐりながら一発で撃ち落していく。
あっと言う間にレベルワンをクリアした。
アレック艦長があきれて笑っている。
「お前、学校行かずにゲームばっかりやってたんじゃないのか?」
「あはは、ご名答」
「うまいもんだな」
ほめられたレイターは本当にうれしそうだ。
「へへ、俺は銀河一の操縦士になるんだ、っつったろ」
レベルワンは初心者向けだ。ゲームが得意な子どもでもクリアできる難易度だ。だからみんな笑っている。
とは言え、僕はまた違和感を感じた。
シミュレーターと彼の体のサイズはまったく合っていない。しかもこれはゲーム機ではない。Gもかかるし、よりシビアな反応が求められる。それなのにあのスピードで一発クリアだ。
ゲーム機でやり慣れていると言っても本物の船を飛ばす感覚なしに、あそこまでできるのだろうか。
「遊びはこのぐらいにしておけ」
「イエッサー。いつか本物も操縦させてくれよ」
真面目なモリノ副長が苦笑しながら諭す。
「ゲームと本物は違うぞ。大人になって連邦軍に入隊したらいくらでも乗せてやる」
「うん。銀河一の操縦士の俺がいれば、向かうところ敵なしだぜ」
無邪気に子供が夢を語っているように見える。
レイターはしつこい要求はしない。分をわきまえている。どうすれば大人に気に入られるかを彼はよく知っていた。
彼をこの艦に残す権限を持つ者にうまく取り入りながら、やりたい放題だ。
一見、素直な子供のような彼の計算高い演出に、大人たちはだまされている。
他人のことは言えないか。私自身、大人社会の中で彼らが求める子供像を演じて生きているのだから。
*
アレクサンドリア号が地球を出航した時の空港爆発のニュースを見返していて気になったことがあった。
「レイター、君はどうして空港のこんなところにいたんだ?」
「え? 遊んでたんだよ」
レイターの瞳に一瞬動揺が見えた。
「激しいマフィアの抗争が続いていて、民間人は外出自粛していたそうじゃないか」
「俺、親がいねぇから適当だったんだ」
空港の爆発によって、その場にいたマフィアのガーラファミリーは構成員二十人が死亡し壊滅的な打撃を受けていた。抗争というが相手の姿が見えない。
何かがおかしい。
裏社会事情に詳しいメディアにアクセスしてみる。
今回の第三次裏社会抗争は、老舗マフィアの首領のダグ・グレゴリーが『緋の回状』と呼ばれる十億リルの懸賞金付き殺害命令を出したことが発端だという。
その対象人物の命を狙って銀河中のマフィアが探し回り、グレゴリーファミリーの縄張りである地球の街を荒らした。狙われた人物は、空港の爆発事故によって死亡。懸賞金は支払われなかったと記載されていた。
この抗争でマフィアの勢力図は塗り替わり、結局、グレゴリーファミリーが一人勝ちしたとある。
嫌な予感がする。懸賞金をかけられて空港で死亡したのは一体誰なんだ。ガーラファミリーの構成員なのだろうか。
将軍家が持つディープな情報バンクへアクセスする。
検索データを見た瞬間、僕は思わずまばたきをして見直した。
”『裏社会の帝王』ダグ・グレゴリーが『緋の回状』で殺害命令を下した対象はレイター・フェニックス十二歳。殺害命令発出の理由は不明。”
十二歳の殺害に十億リルの懸賞金。常識では考えられない。だが、納得する自分がいた。
「生き延びるため」
レイターはこの艦に乗り込んだ理由をそう語った。
ちょっと試してみるか。
「緋の回状」
レイターの前でつぶやいてみた。 (9)へ続く
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