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銀河フェニックス物語<少年編> 流通の星の空の下(4)
・<少年編>「流通の星の空の下」(1) (2) (3)
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黒船から飛び出した二本のアームが、レイターが乗るコンテナ船に巻き付いていた。
アームの先端が外れないようコンテナに食い込んでいる。
そして黒船は、コンテナとこの牽引船をつなぐ接続部を、レーザーカッターで一気に切断した。
手慣れている。
黒船は逆噴射をかけた。コンテナ船を丸ごと盗み去るつもりだ。
急いで追いかけようと船を反転させた。
「レイター! 大丈夫か?」
通信機に向かって叫んだ。
レイターから返事がきた。
「アーサー、電磁バリアを張って、そのまま一ミリたりとも船を動かすな!」
彼に何か考えがあるようだ。
牽引船に電磁バリアを張った。
一ミリたりとも動かすな、だと。随分難しい要求をする。
追いかけるほうが楽だが、僕はレイターが言う通り船をホバーリングさせた。
レイターが、コンテナ船のエンジンに火を入れた。
接続部が切れたため、コンテナ船の操縦機能が生きたのだ。
黒船は驚いていることだろう。
牽引中のコンテナに、人が乗っているとは想像していなかったに違いない。
レイターが初速で思いっきり加速をかけた。コンテナ船が、こちらへ向かって動き始めた。
コンテナ船は推力が強い。
そのまま黒船が引っ張られる。
アームでつながった二隻が、まっすぐにこの牽引船めがけて飛んでくる。
黒船がアームをはずそうとしているが、先端が引っかかっていてはずれない。
「アーサー、ぶつかるぞ」
ザブリートさんが慌てている。
レイターの作戦はわかった。
黒船を電磁バリアに接触させて止めるつもりだ。だが、何てまどろっこしい作戦なんだろう。
彼は一ミリたりとも動かすなと言った。動かしたら失敗する。下手したら大事故だ。
レイターは最初に加速させた以外は、操縦しないつもりらしい。
あんなに操縦したがっていたのだから、こういう時こそ、コンテナ船の操縦桿を握ればいいのに。
操縦できる、と豪語していたのは嘘なのか。
十二歳の考えることはよくわからない。
「あいつ操縦できないよな。アーサーどうするよ?」
「このままの状態で待ちます」
僕は一ミリも船を移動させず、彼の計算を信じた。
コンテナ船と黒船が目の前に迫る。
この船の電磁バリアは、船体から二メートルまでを守っている。
ガガガガガッツツ
黒船が電磁バリアに突っ込んだ。
「ほう」
僕は無意識のうちに感嘆の声を上げた。
突入角度が絶妙だ。
電磁バリアに突っ込んだ黒船は動力炉が動かなくなり、すぐ横で止まった。
そして、コンテナ船はぎりぎりのところで電磁バリアに触れなかった。
すぐに警察がやってきた。いつの間にかレイターが通報していた。
*
黒船はこのあたりを荒らしまわる窃盗団の一味だった。
警察官から簡単に事情を聴かれた。
「君たちお手柄だよ。それにしてもよかったなあ、運が良くて。一つ間違ったら船が激突して大惨事だったよ」
運がいい? 違う。すべてレイターの計算通りだ。 最終回へ続く
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