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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第七話 彼氏とわたしと非日常 (2)
銀河フェニックス物語 総目次
第七話 彼氏とわたしと非日常 (1)
<恋愛編マガジン>
シーズン第二戦。
ワークスであるうちもギーラルも『兄弟ウォール』もトップに立てなかった。プライベーターのチーム・スチュワートが初優勝したのだ。解説者が名付けた通りS1戦国時代がスタートした。
スチュワートの『万年六位』というジンクスを覆したのは、なんと、新人レーサーの『白魔』だった。
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かつて、レイターにバトルで負けた飛ばし屋がS1に参戦し、真っ白な愛機で一着でゴールした。レース中、第一レーサーのコルバが新人をうまくサポートしていた。
「オレをなめるなよ!」
透き通るような白い髪に白い肌。前髪の赤いメッシュが燃えるように鮮やかだ。純白のレーシングスーツを着た白魔は表彰台でカメラに向かって叫び回り、表彰台の一番高いところで狂ったようにシャンパンボトルを振り回していた。
情報ネットが一気に騒がしくなっている。白魔の白いビジュアルはインパクトがある。エースロスで沈んでいた女性ファンが息を吹き返した。
「どうだい、ティリーさん。エースの後は白魔を推したらいいんじゃね?」
笑顔で手を叩いているレイターをチラリと横目で見る。
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「貴公子への愛はあんな下品な白魔ごときじゃ揺らがないわ!」
「イライラするなよ。お肌に悪いぜ」
怒りがわかずにいられない。エースと白魔が同列に扱われるのは許せない。それだけじゃない。
プライベーターである白魔が操縦したのはギーラルの新型船で、ギーラルのオクダは準優勝だった。つまり、ワンツーをライバル会社に持っていかれてしまったのだ。
うちのマッキントッシュは四位だった。クロノスが表彰台に上らなかったのはいつ以来だろうか。少なくともわたしがS1ファンになってからは一度もない。
「レイターは悔しくないの?」
「あん? 俺が推してるスチュワートが優勝したんだからうれしいぜ」
「だって、あの白魔よ。レイターなら絶対勝てるじゃない」
彼氏が成し遂げていないS1優勝を白魔がしたことが、腹立たしさに輪をかける。
「そもそも、スチュワートに白魔を勧めたのは俺だから」
初めて聞く話だった。
「何てことをしてくれたの。そのせいで、うちが表彰台から落っこちちゃったじゃないのよ」
スチュワートさんは慣れた様子で報道陣のマイクに囲まれている。
「私の道楽にお付き合いありがとう。戦国時代に感謝するよ」
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急成長したベンチャー企業の社長で大富豪の彼は、弊社の大口顧客で、一度だけ仕事でお会いしたことがある。人当たりは柔らかいけれど、生き馬の目を抜く世界で勝ち抜いてきた人だ。迫力というか雰囲気に飲まれて、うまく営業できなかったことを思い出す。レイターはスチュワートさんと昔からの知り合いで、あの時もレイターに助けられた。
昨シーズンのS1でスチュワートさんはレイターをチームに引っ張り、準優勝した。そして、今回優勝。とにかくやり手だ。
「レイターはS1で優勝したくないの? 『銀河一の操縦士』として歴史に刻まれる結果というか、そういう形のあるものを残したいとか思わないの?」
「う~ん、強い奴とバトルはしてぇけど、今のS1じゃ俺より速い奴いねぇしな」
昨シーズン、レイターと付き合っていなかった。エースとレイターが戦った時は、社長である推しを応援した。彼女となった今なら大手を振ってレイターを応援できる。
「クロノスの船でもう一度S1に出てよ。そうすれば、わたしたちウインウインだわ」
(3)へ続く
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