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銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(41) 決別の儀式 レースの途中に

銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」①   
第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」①   (40)

 あれは、老師の教えだったのか。

「レイターの奴、一分一秒でも船を自分の中に取り込みたいと言っていたぞ。全知全能の力で時を止めて支配したいと」
 銀河一の操縦士は、ひたすら己を高める努力を続けていた。俺から見ればあいつは天才だが、本人は納得していない。
 悟りを求める求道者の苦行のようだった。

悩みかみしめ

「レイターは身体中の五感、いや第六感も使って、船と一体化しようとしているんでしょうね。彼には内燃機関の動きもボディの加熱状況も、センサー以上に見えているようです」

「ははははは……だまされた」
 俺は笑いが止まらない。

「ヒヤヒヤさせやがって。パラドマ発火を起こすと見せかけてオクダを抜いたのか。あいつは、ギーラルの魔法使いと俺たちを出し抜いて二位に躍り出たんだ」

 こいつは傑作だ。  


* *


 エース・ギリアムは自分のすぐ後ろを飛ぶのがハールだと気が付いた。
 想定通りだ。『銀河一の操縦士』はそうでなくては。

普通後ろ目

 残り二周。あと五分以内に決着はつく。

『無敗の貴公子』と呼ばれる自分が、これまで非公式の場で彼には二敗している。だが、ここS1では負けない。

 レイター、君のことはよくわからない。ティリーのことを好きだと公言しながら、彼女が近づくと遠ざける。
 君の行動がティリーを傷つけていることは、人の気持ちを慮ることが苦手なこの僕にでもわかる。

背を向ける

 許さない。
 プラッタS1機は銀河最速の船。そして僕は無敗の貴公子。

 さあ、レイター、君の全知全能の飛ばしとやらを見せてもらおうか。


* *

 こどもが、うちゅうせんをそうじゅうしてる。

6歳

 チャイルドレースの動画を初めて見た時、俺は口から心臓が飛び出すほど驚いた。
 あれは、まだ、お袋が生きてた頃。

『エース・ギリアム君は三歳から宇宙船を操縦しています』

少年

 衝撃だった。
「うちゅうせん、そうじゅうしたいぃ~。こどもだってできるんじゃん」
 と大騒ぎした。

「レイター、無理を言わないで」
 サーキットじゃ金持ちしか乗れねぇ、ってことがよくわかってなかった。駄々をこねる俺にお袋が悲しい顔をした。

 思えば四歳年上のエースは、いつも俺の前にいた。

 俺が、初めて無免許で船を飛ばしたのは九つの時、お袋が死んでふらふらしてた頃のことだ。元S1レーサーのカーペンターが俺に操縦を教えた。

カーペンター後ろ目一文字

 ちょうどエースはジュニアクラスで連戦連勝していた。
 俺はS1に乗るのが夢だった。銀河最速のS1レーサーこそ『銀河一の操縦士』だと信じてた。

 俺は師匠に聞いた。
「俺、エースに勝てるかな?」
 口下手なカーペンターが珍しく饒舌だった。
「エースの持ち味は強さだ。お前は速いがまだ無理だな。ジュニアのレースじゃなくて、大人になってS1で勝て。そして、優勝しろ。俺の弟子ならできる」
 と、S1のコースで俺に操縦桿を握らせた。

『超速』と呼ばれたカーペンター。
 あんたの最期の言葉が俺を外へと導いた。
「ここにいたらダメだ。銀河一の操縦士を目指せ。お前ならできる」

 師匠のおかげで外へ出た俺は、十四の時に仮免を取り戦闘機に乗った。

13レイター小@前目軍服きり逆

 その年、エースは十八歳でS1デビューし、いきなり優勝した。エースは師匠が言う通り相変わらずうまいし強い。でも、俺より遅い。

 待ってろ、無敗の貴公子。
 その無敗を俺が止めてやる、って十四歳の俺は思ってた。

 戦闘機乗りには、俺よりうまくて速くて強い奴がいた。

 それが何を意味するかと言えば死だ。戦地にはS1のようなルールはない。卑怯でも何でも生き残る奴が強い。
 その世界で十四歳の俺は、敵の英雄ハゲタカ大尉と鉢合わせした。

ハゲタカ大尉前目微笑白黒

 ハゲタカ大尉の通った後には何も残らないと恐れられていた。味方は次々と撃ち落され全滅した。
 圧倒的に俺よりうまくて速くて強い。俺の前には絶望と死しかなかった。

 あの時、俺は初めて『あの感覚』に陥った。

 今でもよく思い出せねぇ。記憶から欠落している。
 あとから記録映像を見た。俺は驚くような軌跡を描いてハゲタカ大尉を撃墜していた。

 どうしてこんな飛ばしができたのかわかんねぇ。天才少年に聞いてみた。
「火事場の馬鹿力という言葉を知っているだろう。極限状態に追い込まれれば能力が最大限引き出されるということだ」とアーサーは答えた。

16少年正面@2

 それじゃだめだ。制御できねぇってことだ。
 極限状態じゃなくて、いつでも思い通りに『あの感覚』にたどり着けるようにならなくちゃならねぇ。

 あれからずっと追い求めている。
『あの感覚』が扱えれば、俺は正真正銘の『銀河一の操縦士』だ。   (42)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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