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「転校生は将軍家?! 」第2話 週刊少年マガジン原作大賞応募作品 銀河フェニックス物語【ハイスクール編】
息を切らして裏山へ戻ると、乱闘の音がした。どういう状況なんだろう。茂みからこっそりのぞく。
レイターの周りに人がごろごろ倒れている。
「このチビ!」
隣の学校の制服を着崩している不良が木刀でレイターに襲いかかった。 レイターが、すっとかわしながら蹴りを入れる。
「チビっつうな」
そいつは地面に倒れたまま動かなくなった。
どう見ても、よってたかってレイターをいじめているようにしか見えないけれど、レイターの奴、相手の動きを見切ってる、っていうのか、一人、また一人と倒れていく。
キーレンがあせってる。
ナイフを取り出して、レイターの背後から狙うのが見えた。
オレは叫んだ。
「レイター、後ろ!」
レイターは振り向きざまに、キーレンの手首をつかんで捻った。自分の頭より上に足を上げ、そのまま、キーレンの顔面に蹴りを入れる。びっくりするほど身体が柔らかい。
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一瞬だった。キーレンが鼻血を出して倒れた。
「顔がでかいと、的もでかいな」
レイターは、キーレンの腕をねじあげて背中の上で踏みつけると、キーレンの首筋に取り上げたナイフをあてた。
レーザーナイフだ。
キーレンのうなじあたりの毛が、じりじりと焦げて煙があがる。
「なあ、苦しんで死ぬのと、苦しまないで死ぬのとどっちがいい?」
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抑揚のない喋り方と子どもの様な声のアンバランスさが不穏な空気を生み出す。その場にいた全員が凍り付いた。こいつ、何の迷いもなく平気で人を殺せるんじゃないか。そう思わせる空気がそこにあった。
「や、やめろレイター」
オレはかろうじて声を出した。
「あん? ロッキー、俺はただ質問してるだけだぜ」
口調はやわらかかったが、緊張感は溶けない。
レイターはレーザーナイフを手のひらの上でくるくると回した。一体、どうやってキーレンの身体を押さえつけているのだろう。体重はキーレンの半分ぐらいにしか見えないのに。
「じゃあ、次の質問。キーレン、あんた『番』を俺に譲る気あるか?」
「ゆ、譲る」
キーレンが絞り出すようにして答えた。
あのキーレンが、ライオンに捕まった小動物のようだった。どうあがいても勝てない。格の違いが周りにいる全員にも伝わる。
「譲るって言われても、いらねぇんだけどさ」
おいおい、言ってる意味がわかんないぞ。
レイターは押さえつけたままキーレンのポケットをまさぐると、レーザーナイフの鞘を抜き取った。
「ま、譲られてやるよ。その代わり、意味のねぇ喧嘩はするな。このナイフは証文の代わりにもらっとく」
「わ、わかった」
「わかりゃいいんだ」
レイターはキーレンを踏みつけたまま立ち上がると倒れている奴らをぐるりと睨みつけた。
「いいか、お前ら、きょうのこと黙ってろよ。将軍家の耳に入ったらただじゃすまねぇからな」
迫力に圧倒されてうなずくしかない。
レイターは『番はいらねぇ』って言いながら、完全にキーレンの裏番におさまった。
「さってと、行こうぜロッキー」
「あ、ああ」
オレたちは裏山を後にした。
「すごいな、お前」
「いやいやロッキー、あんたのおかげだ。さっきはありがとな」
レイターが頭を下げたので、オレは驚いた。
「な、なんだよいきなり」
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「俺の命、救ってくれたじゃん。このナイフ、かなりの上モノだ。やばかったぜ」
鞘にはいったままのレーザーナイフを取り出した。こいつ、ほんとに修羅場をくぐってる。
「なあ、おまえの乗ってた戦艦って、どこにいたんだ?」
「う~ん、どこって、ぐるぐる回ってたんだ、前線を」
前線……
こいつ、人を殺したことがあるんだろうか? いや、飯炊きのバイトは戦闘にはいかないよな。
校舎の前でエマが待っていた。
「エマちゃ~ん」
レイターは手を振りながらエマへ向かって走って行く。まるで、大型犬が飼い主に飛びつくような感じでエマに抱きついた。
「レイター、ありがとう。大丈夫だった?」
「ああ、ロッキーに助けてもらったんだ」
「そうなの? ロッキー君、ありがとう」
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「いや、違う、いや、違わない」
まぬけな答えをしてしまった。
「レイター、きょうも家に親、いないのよ」
「じゃ、行ってもいい?」
レイターがうれしそうに笑う。
「うん」
これはどういう状況だ? 気のせいかエマが色っぽく見える。親がいない時に自宅へ出かけるって。まさか。
「お前とエマって付き合ってんの?」
「ううん」
二人が同時に首を振った。
「だよな」
俺はうなずいた。仲のいい姉と弟の様にしか見えない。だから次のレイターの言葉に目を丸くした。
「でもちゃんと、避妊してるから大丈夫さ」
「は?」
「っつうことで、俺、エマちゃんちに行くから。きょうはお疲れ。いろいろありがとな」
腕を組んで歩く二人の背中を見ていると、オレの心臓はバクバクしはじめた。
そして、オレは知った。レイターの奴はしょっちゅう朝帰りしているということを。将軍家ってところは随分と放任主義だった。
*
レイターとつるむことが増えた。退屈しない、ってこともあるが、それだけじゃない。多分、こういうのを気が合う、って言うんだろうな。とは言え、あいつのことはわからないことだらけだ。
あれは、物理の授業中だった。
レイターが落書きに夢中になっているところを、教師に見つかっちまった。この教師、神経質で生徒の非を理詰めでねちねち攻めてくるから、みんなから嫌われていた。
「レイター・フェニックス。君は何をしているのかね?」
「力学の勉強です」
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あいつは、いけしゃあしゃあと答えた。
「じゃあ、これは何かね?」
教師はレイターの落書きを、正面のスクリーンに大写しにした。二隻の宇宙船が並べて描いてあった。
クラス中が小さな声で笑った。レイターがいつも宇宙船の落書きをしていることはみんな知っている。
「私には、宇宙船にしか見えないが」
「そうです。レース用S1機です」
開き直ってるよ。オレたちは笑いをこらえるのに必死だ。
レイターだけが、真面目な顔をして教師に聞いた。
「先生に質問です。右の船と左の船。どちらの旋回性が高いと思いますか?」
「君はふざけているのかね」
「ふざけていません。左の翼は、カロック原理の係数を二次元に置き換えて曲線を描いてみました」
レイターはなにやら小難しい式をモニター上に書き始めた。
「ところが、モデル計算式にあてはめても旋回性が上がらないんです。その理由がわかりません」
レイターが何言ってるのかさっぱりわかんなかったが、教師は宇宙船を見つめて急に黙り込んだ。
「君は将来、宇宙船の設計技師になるつもりかね」
「いいえ、操縦士です」
「まあいい。この問題は宙航力学だけで解けるものではない。あとで教科の部屋に来なさい」
「いやです。今、ここで教えていただけませんか。わからないなら、それはそれで結構です」
教師の細い目が見開き、眉が怒りで震えている。
丁寧な言い方だったけど、今のはどう聞いても「あんた物理の教師のくせにわかんねぇのか」ってバカにしてる様に聞こえた。慇懃無礼というやつだ。
教室中が緊張した。その時、授業終了のチャイムが鳴った。
「勝手にしたまえ。きょうの授業はこれで終わりだ」
それだけ言うと、教師は部屋を出ていった。俺は驚いた。
「なあ、お前、ってほんとは頭がいいのか?」
「あん? 力学は操縦士に必要な常識だろ」
この一件以来、物理の授業中にレイターが何をしていても、教師は文句を言わなくなった。ただし、レイターは物理でどんなにいい点を取っても、追試を受けさせられた。
**
「う~むっ。わかんねぇ」
レイターは二隻の宇宙船を書いた紙を手にうなった。
悩みだしてから、きょうで三日目。
どうして左の船の旋回性が上がんねぇんだろ。
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どっかで計算を間違えてる、としか思えねぇが、一体どこだ?
物理の教師にも聞いたが、全然わかってなくて役に立たなかった。
レイターはため息をついた。
天才のアーサーに聞けば一秒で誤りを見つけ出すだろう、ってわかってる。だが、できればあいつには聞きたくねぇ。
もう一度紙を見つめる。ダメだ煮詰まってる。
レイターは紙を机の上に置くと、窓を開けた。
外は少し風が強い。花の香りが部屋の中へ吹き込んできた。
ここ、月の御屋敷ってところは、連邦軍の要塞には見えねぇ。窓の下に花園が広がっている。
アーサーの妹のフローラが、庭師のアンダーソンと花の手入れをしていた。苗を植えている様子が、二階のこの部屋からよく見える。彼女の長い髪が風に揺れていてかわいい。
この広いお屋敷で、彼女と顔を合わせることはほとんどない。アーサーの奴が、俺と彼女をあわせないようにしてるんじゃねぇかと勘繰る。
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とその時、
窓から入ってきた風が、机の上にあった紙を吹き飛ばした。
「あっ! やべ」
紙が風に乗って、窓から外へ飛んでいく。
**
「あっ! やべ」
という声が聞こえてフローラは振り向いた。
窓から白い紙が、こちらへ向かって飛んでくるのが見えた。
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レイターが二階の窓から飛び降りようとしていた。
「止めて!」
思わずフローラは叫んだ。
「種が……」
レイターを心配したのではなかった。あの窓の下には、まだ芽の出ていない種が植えてある。
「あん?」
フローラの声が聞こえたのか、レイターは花壇をよけ、不自然な形で着地した。
「痛ててて……」
「お嬢様」
アンダーソンが窓から飛んできた白い紙を拾い、フローラに手渡した。
二隻の船の絵と計算式が書いてある。
初めて会った時、『銀河一の操縦士』と自己紹介していたことを思い出した。
「いやぁ、悪りぃ悪りぃ」
レイターが大急ぎで走ってきた。ちゃんと花が植えてあるところをよけていることに、フローラは気がついた。
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