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銀河フェニックス物語<裏将軍編>風の香り、その後(上巻)
・銀河フェニックス物語 総目次
・裏将軍編のマガジン
・最後の最後は逃げるが勝ち(1)~ 最終回 ・風の香り
月の御屋敷へ見舞いに行くとレイターはベッドの上で半身を起こし窓から庭を見おろしていた。
「おい、調子はどうだ?」
俺は恐る恐る声をかけた。
あいつはうれしそうな顔で振り返ると、大きく伸びをした。
「ロッキー、あんた、いいところへ来てくれたぜ、もう、ここにいるのも飽きちゃってさ」
と言いながら、ベッドから軽く飛び降りた。
すっかり体調はいいようだ。こいつと会うのも久しぶりだ。びっくりするほど背が伸びてる。オレより高いじゃないか。
裏将軍のアジトで会った時のこいつは、怖くて、とげとげしてて、ハイスクールの頃とは別人のようだったことを思い出す。
「お前、ここん家でぶっ倒れてたんだって?」
とりあえず、今、下でバブさんから聞いた話を振ってみる。
「そうらしいな。覚えてねぇんだ。アーサーの奴は俺のこと犬呼ばわりしやがった」
口をとがらせて文句を言うレイターは、ハイスクールでだべってた頃のレイターと変わらなかった。
この部屋も全然変わってない。懐かしい。
「結構ひどい怪我だったんだろ?」
レイターが俺の顔を見つめる。
「俺さぁ、マフィアのラダルドの本部に船で突っ込んだんだ」
「アーサーに聞いた。ニュースで見たぞ、突っ込む瞬間」
あの燃え盛る炎の中から生きて帰ってくるなんて、信じられないよ、こいつは。
報道では突っ込んだ人物は身元不明でそのまま死亡した、って伝えていた。
アーサーがこっそりオレに教えてくれた。
あれはレイターがやったことで、瀕死の重傷を負いながら月の御屋敷に帰ってきた。で、「退屈しているようだから、顔を出してやってくれ」と。
「ラダルドの本部が燃えてる動画は映画みたいだったぞ。よく生きて帰ってきたよな。お前って、きっと殺しても死なないんだよ」
って口にしてから、しまった、と思った。
一瞬、レイターの表情が強張ったように見えたからだ。前に会った時、こいつが心から死にたがっていたことを思い出した。
オレは、いつも一言多い。
「どうやらそうらしいな」
レイターは軽く受け流すと、窓の前に立った。庭師のアンダーソンが花園の手入れをしているのが見える。
「フローラに命を救われた」
「え?」
レイターが窓を開けると風が吹き込んできた。
花の香りが部屋を満たす。懐かしい香り。フローラが部屋にいるような錯覚に陥る。
「俺、死ぬ気でラダルトへ突っ込んだんだ」
あの映像見たら誰だってそう思う。自殺行為だ。
「激突の衝撃で、俺は操縦席から吹っ飛ばされて、意識を失ったんだ。その時、フローラが転がってた俺を呼んだ」
フローラが?
オレはゴクリとつばを飲み込んだ。
レイターが話を続けた。
「俺は自分が死んだと思った。目の前にフローラが立ってたんだよ。にっこりと微笑んでた。俺は誘われるままにフローラへ向かって歩き出したんだ。その直後に大爆発が起きた。真っ白な閃光だけ覚えてる。ちょうど俺の歩いた先が爆風の影になったようなんだよな。その後は記憶がねぇんだけど、どうやら近くにあった宇宙船を盗んで帰ってきたらしい」
「そうだったのか、よかったな」
胸が詰まって泣きそうになる。こいつが生きて帰ってきてくれて本当にうれしい。フローラのお陰だ。
レイターはうれしくもなさそうに言った。
「フローラは、俺に会いたくねぇのかな」
あの世に片足を突っ込んでるレイターの姿が頭をよぎる。
オレは夢中で反論した。
「な、何言ってんだよ。フローラに救ってもらったのにそんな言い方はフローラに悪いぞ。フローラのことを一番わかってるのはお前だろ。お前、フローラのこと信じてないのかよ。あいつはお前のためになることしか絶対にしない。フローラがお前の命を救ったってことは、フローラがずっとお前のことを見てた証拠じゃないか・・・オレは、オレは、お前が生きてて、ほんとにうれしいんだからな」
オレはレイターの目をじっと見た。レイターもオレの目を見た。息が苦しいが、目を逸らしたら負けだ。
これじゃにらめっこだ。 中巻へ続く
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