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銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十話(6) さよならは別れの言葉
六年前、社内の対戦でレイターが『無敗の貴公子』に勝っていたと記事になっていた。
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「だって、本当の話だし、当時の担当者ならみんな知ってる話じゃない」
「でも、箝口令が引かれてるじゃないですか」
箝口令、という強制力のあるものかどうかはわからないけれど、『無敗の貴公子』のブランドに傷が付くようなことを、表だって話す社員はいない。
「誰がしゃべったか犯人探しが行われると思うんです。専務を裏切っているんですから」
「まあ、社員しか知らない話だからね」
と口にしたけれど、わたし自身それほど深刻な感じはしなかった。心の中で表に出てよかった、とすら思っていることに気づいた。
「これ、しゃべっちゃったの。ジョンなんです」
「え?」
サブリナがあわてている理由がわかった。
エースのための船を設計していて『無敗の貴公子』を貶める気持ちなんてさらさらないことはわかっている。
「祝勝会から酔って帰ってきたところに、知り合いの記者がいたんですって。おもしろい話はないかって聞かれて、つい調子に乗ってべらべら喋っちゃったらしくて」
ジョン先輩らしい。
先輩は宇宙船の設計で著名な賞を取るほどすごい人なのだけれど、政治的なことにはめっきり疎い。
一方のサブリナは社内事情に敏感だ。
「わたしがこの記事に気づいて、ジョンに連絡を取ったら、あの人、何かまずかったっけ。なんて言ってるんです」
ジョン先輩は、レイターと学生時代からの知り合いで仲がいい。
レイターがすごい、ってことを誰かに話したいという気持ちがわたしにはよくわかる。
「このままだとジョンが話したってことがすぐにバレて、社内規則十五条の『会社の不利益にあたる行為をしたものは解雇もありうる』が適用されちゃうんじゃないでしょうか」
「解雇? それはないと思うけど…」
と言いながらも確信はなかった。
「ティリー先輩、何とかうまく取りなして欲しいんです。先輩ならエース専務と直接話ができるし」
「う、うん」
あいまいに返事をして通信を切った。
ジョン先輩の行為は情報漏洩にあたるのだろうか?
エースになんと声をかけよう。面倒な案件に気分がふさいだ。
*
出社すると会社に正式な問い合わせがきていた。
『過去にエース専務とレイター・フェニックスの対戦があったのか。その勝負にレイターが勝ったのか?』
広報のコーデリア課長が役員室に顔を出して頭を悩ませていた。
「事実を確認中です。とだけ応じていますが」
対戦があったのは確かだけれどあくまで非公式のものだ。
そのバトルではレイターが先にゴールした。けれど、危険暴走行為を取られてエースに勝利判定がでている。
社として答える必要があるのかないのか。答えるのであればどこまで開示するのか。
二人の副社長を呼んで緊急の話し合いがもたれた。
サブリナには悪いけれど、すでにわたしが口を挟める状況じゃない。
エースは動じていなかった。
「まあ、この情報は表に出て困るものじゃない。僕が説明したって構わないぐらいだ。だが、まずい情報もある。それをどうするかだ」
表に出て困る情報。緊張した空気が室内に走る。
「例のS1プライムですな」
営業畑のアリ副社長が答えた。
レース形式のS1プライム。暴漢に襲われたエースの代わりに、レイターが替え玉で出場し優勝したのだ。完全なS1規程違反。
エースが二人にたずねた。
「どのタイミングでオープンにするべきだろうか?」
「オープンにするんですか?」
アリ副社長は驚いた声を出した。 (7)へ続く
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