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銀河フェニックス物語<少年編> 第七話(5) 初恋は夢とともに
レイターが語りだしたマフィアとの関係はアーサーにとって興味深いものだった。
・銀河フェニックス物語 総目次
・第七話「初恋は夢とともに」 (1)(2)(3)(4)
・<少年編>のマガジン
「俺のお袋は俺が九つン時に肺炎で、あっという間に死んじまった。もともと貧乏だったが、とにかく俺は食うに困ったんだ」
「食うに困る? 純正地球人なのに」
「お袋は病院にも行けなかった」
「福祉支援地域か……」
基本的に純正地球人は裕福だ。
宇宙へ出る必要のなかった人たち。我がトライムス家も本家は地球に残っている。
一方で、地球には宇宙に出ることすらできなかった一部の人たちが、福祉支援地域に暮らしていた。
「貧乏人地域だろ」
レイターが自虐的に笑った。
「預けられた施設じゃほとんど飯を食わせてもらえなくてさ。給食の無い日は地獄だったぜ。けど、近くにダグんちがあって、いくらでも飯を出してくれたんだ。俺の命の恩人なんだよ」
話がよく見えない。
「君は前にグレゴリー一家に居候していたと言っていたが、『裏社会の帝王』は慈善事業でもしていたのかい?」
「ダグには俺と同じ年の息子がいたんだ。そいつは、七つん時にダグの妻と一緒に抗争で殺されちまってさ。だから、ダグにとって俺はちょうど息子の代わりみてぇなもんだったんだろな。船の操縦でも銃の扱いでもやりたいと言えば何でもやらせてくれた」
それで船も銃も扱えるのか。
「俺の親父は俺が生まれる前に死んだから、俺は父親ってモノを知らねぇが、マフィアのファミリーは疑似家族だからな。俺はダグを本当の親父みたいに思って慕ってた。そのうちに、ダグは俺を養子にしたいって言いだしたんだ」
少なからず僕は驚いた。
「それは、君をグレゴリー一家の跡継ぎにするということかい?」
「あんたは頭がいいから話が早くて助かるよ」
ダグ・グレゴリーの跡を継ぐということ、それは、すなわち『裏社会の帝王』の跡を継ぐということだ。
レイターに感じていた謎が解けていく。
ただの十二歳じゃないと思っていた。彼はありとあらゆる裏社会の帝王学をダグから受けていたのか。
「跡を継げと言われて、君はファミリーから抜け出した」
「そりゃそうさ。俺は『銀河一の操縦士』になるのが夢なんだ。マフィアとつながってたらS1に乗れねぇんだぜ。裏社会になんかいられねぇよ」
ダグ・グレゴリーはレイターにマフィアの英才教育をほどこしたが、裏社会で生きていく、というマインドだけは教え込めなかったいうことだ。
「それで君を裏社会に引き戻すために十億リルが動いた。でも変じゃないか、君に後を継がせたいのなら、なぜ君の殺害命令が出るんだ?」
「俺が知るかよ。ただ、ダグに逆らったら生きていられねぇ。それが掟だ」
レイターが苦しそうな表情を見せた。
「俺はダグを裏切ったんだ」
ダグに逆らったら生きていられない。
そしてまたジュリエッタも死を選んだ。
二つが繋がっていく。
レイターの中に深く刻まれた裏社会の呪縛が、ダグに殺される夢を見せている。
「真っ赤な夢、というのは具体的にどんな夢なんだい?」
レイターが顔をしかめて黙った。話すのが辛そうだ。これ以上追及するのは止めた方がいいかも知れない。と思った時、口を開いた。
「あんた『緋の回状』知ってるだろ」
僕はうなづいた。グレゴリー一家を調べたらすぐに出てきた。『緋の回状』はダグ・グレゴリーがマフィアに発する命令のことだ。直近ではレイターを殺害するように『緋の回状』が出された。
緋色は鮮やかな赤色だ。夢の色とつながる。
「俺、『緋の回状』の公開処刑の手伝いをしてたんだ」
最終回へ続く
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