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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第六話 父の出張(5)
ロッキーのアイデアでティリーは故郷に残る母親と連絡をとることになった。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① (1)(2)(3)(4)
<恋愛編>のマガジン
*
ティリーさんが自宅の通信モニターをセットしている。勝手知ったるキッチンで俺は二人分のコーヒーを用意した。
俺はこれまで命のかかった修羅場を何度も潜り抜けてきた。どんな不測の事態にも対処できるはずだ。
「あれ? 香りがいい」
「俺が淹れたんだ。当然だろ」
かぐわしい匂いが気持ちを落ち着ける。物事はなるようにしかならねぇ。
覚悟を決めて通信機の前でコーヒーを一口すすった。
長距離通信の呼び出し音の後、モニターに優しそうなご婦人が映った。
「あら、ティリー、久しぶりね。パパに会った?」
初めて見るお袋さんはティリーさんに似ていた。髪の色も瞳の色も同じだ。だが、おっとりしていて雰囲気が違う。
「会ったわよ。パパったら、突然押し掛けてきたの」
ティリーさんのちょっと勝気なしゃべり方は親父さんと似てるな。
「連絡してから行けば、って言ったんだけど、ティリーを驚かせたい、って楽しそうにしてたから……」
「あのね、ママ聞いて。わたし付き合ってる人がいるの」
「まあ、それはうれしい報告ね。でも、あわてて連絡してきたってことは、パパとうまくいかなかったってことかしら」
「そうなの……それで」
ティリーさんがいきなり俺をカメラの前へと引っ張った。
「彼がわたしがおつき合いしている。レイター・フェニックスさんです」
「初めまして」
カメラに向けて頭を下げた。とりあえず一般社会人モードだ。
「あら、あなたS1レーサーの」
「もう辞めましたが」
「パパが怒るはずだわ。『ティリーの敵だ!』って騒ぎながらこの前のS1中継を見ていたもの」
楽し気なお袋さんの笑顔はティリーさんとそっくりだ。
「それでねママ、パパはレイターのこと『とんでもない奴』とか言ってママに報告すると思うの。でも、そんなことない……」
ティリーさんは一瞬言葉を切って、俺の顔を見た。
「とは言い切れないけど」
「ティリーさん!」
俺がちゃんとしてる、ってアピールする場じゃねぇのかよ。思わずコーヒーをこぼしそうになる。
「ママが心配するほどじゃないから」
お袋さんはにっこりと微笑んだ。何ていうか安心感のある人だ。
「大丈夫よ。あのS1はすごかったわね。レースを見ている時から、私、パパに内緒でレイターさんのことも応援していたもの。だって、新人さんなのに、ものすごい操縦でびっくりしたわ」
「そうだったの?」
お袋さんが俺を応援していたと聞いて、ティリーさんがびっくりしている。安いブレンド豆のコーヒーがきょうは滅法旨い。操縦をほめられると俺は弱い。
「エース社長とレイターさんのどちらにも勝って欲しかったわ。だから安心して。ねぇティリー。今度、休みが取れたら、レイターさんと一緒に家に帰ってきなさいよ。本物の彼氏さんから、ぜひお話をうかがいたいわ」
「そうね、うん、わかった。じゃあ、また連絡するね」
と、ティリーさんはあっさり通信を切った。いや、ちょっと待て。
「おい、ティリーさん。何が『うん、わかった』だよ」
「え?」
「俺に、あんたんちに行けってのか?」
「だめなの?」
「っつうか、家にはあの親父さんもいるんだろが」
「忘れてた。でも、何とかなるわよ。ママと話がついたし」
「はぁ?」
今ので話がついたのか? ティリーさんはいつも俺の想定を踏み越える。母娘の関係はよくわかんねぇ。
不安の種は消えねぇが、故郷へ帰ることがうれしくてたまらないといった様子の彼女を見ていると、それ以上言えなかった。 (6)へ続く
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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