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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編>最終話 花は咲き、花は散る(4)
・銀河フェニックス物語 総目次
・<ハイスクール編>マガジン
・「花は咲き、花は散る」(1) (2) (3)
「だが、フローラはレイター、お前に会い、生まれて初めて恋をした。一度は死を受け入れたフローラだったが『もっともっと生きていたい』と言ってこの部屋で泣いた」
私も初めて聞く話だった。
「わしがフローラに十六になれば結婚できると言ったのも、誕生日まであの子の命が永らえるかもしれないと、万に一つの可能性に賭けてのことだった。そして奇跡は起きた。レイター、お前のおかげだ。ここまでフローラが生きられたこと自体がすでに奇跡だったんだ」
フローラはレイターと会い、どんどんと元気になった。
私ですら、このままフローラはずっと生き続けるのではないかと錯覚するほどに。
だからレイターがフローラは病状が良くなっていると思いこむのも仕方がないこと。
レイターが唇を噛んだ。
「どうしてあんた、そのことを俺に言ってくれなかったんだ」
「フローラの希望だった」
「フローラの?」
「アーサーはおまえに伝えるべきだと言ったが、私の判断で言うのをやめた。お前には残酷なことをしたと思う。だが、お前に聞きたい。もし、フローラの命が残り少ないと聞いていたとして、フローラのために何ができた?」
「フローラのために…」
レイターがよろめいた。
「フローラが死ぬと知っていたら俺は…」
「お前は知っていようがいまいが、全身全霊でフローラを愛してくれた。後悔のしようがないほどフローラに尽くしてくれた」
「何言ってやがる、後悔だらけだ! もっと、できることがあったはずだ。もっと、もっと、もっと、フローラに寄り添ってやれた。俺とフローラは家族なんだぜ。なんで俺だけ知らねぇんだよ! 俺は、そんなに信用されてねぇのかよ! おい、ジャック、何とか言えよ!」
「……」
レイターは叫んでいた。
心から血反吐を吐きながら。
「ジャック、あんたを恨まずにはいられねぇ!」
「お前には罪なことをした、許してくれとは言わん」
レイターは部屋を飛び出して行った。
父とレイターのやりとりを聞きながら、私は父の判断が正しかったと思うようになった。
レイターにフローラの命が残り少ないことを知らせなかったのは正しかったのだと。
レイターがもし知っていたら、あんなに無邪気に未来の話はできなかった。
銀河一の操縦士になるという将来の夢。
自分の船を持ってフローラと旅をするという人生のビジョン。
フローラはレイターと一緒に歩む奇跡を信じようとしたのだろう。
余命はあくまで予測だ。ソラ系人とインタレス人の間に生まれたサンプルは私たち二人しかいない。誤差が大きいこともまた確かだ。
レイターと夢を語る時間は、フローラの人生の中で一番幸せな時だったに違いない。
私からすれば、レイター、お前がうらやましい。お前は月へ来てからずっとフローラの隣で過ごしていたじゃないか。
父の問いを自分に向けてみる。『フローラのために何ができた?』
私にできたことといえば、私がフローラと過ごしたかった時間をお前に分け与えることだけだったのだから。
レイターは眠り続けるフローラにずっと話しかけていた。
開いたドアから部屋の様子が見える。ホログラム天球儀を手に持って、とりとめのない話をしている。
「インタレスまで行くには、大きな船がいるって言ったろ。でもさ、こっちの航路を使えば中型船でも行けるんだ。あんたの故郷まで行けば、すぐ元気になるさ」
おそらくフローラと、日がな一日こうやって会話を繰り返していたのだろう。
「俺、一生懸命金ためて船買うから、待ってろよ。そんで、銀河中に花を売りまくるぜ。俺が『銀河一の操縦士』で、フローラ、あんたは『銀河一の花売り娘』だ」
*
フローラが意識を失くしてから三日目が明けようとしていた。
朝、レイターの声で目が覚めた。
「アーサー、ジャック来てくれ! 早く!」
私はあわてて部屋を飛びだした。 (5)へ続く
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