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銀河フェニックス物語 <恋愛編>  第六話 父の出張(8)

ティリーの父はレイターに政治談議を持ちかけ、将軍家との関係を聞いた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① (1)(2)(3)(4)(5)(6)(7
<恋愛編>のマガジン

「慈善事業で親のいねぇ俺の後見人になってくれたんだ」
 レイターはさらりと答えた。
「君から見て、世襲制の将軍が正しく軍を掌握できていると思うかね」
「軍が暴走して戦線拡大したって話は聞いたことがねぇよ」
「常識程度は勉強してるようだな」
「俺、お偉いさんの警護もバイトしてっから」
 新聞読んでるだけの政治好きのパパより、レイターは裏も表もよっぽど世の中の状況を把握している。
「そんなだらしない態度でか」
 人は見た目で判断する。特にパパは身だしなみにうるさい。フォローをいれなくては。

「レイターはね、皇宮警備にもいたのよ」

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「まあ、すごいわね。ドラマで見たわよ」
 ママの称賛の声。ナイスアシストだ。
 皇宮警備は規律も厳しいし、真面目で優秀な人しか選抜されない。少しは見直してくれるんじゃないだろうか。
「ほら、パパも知ってるでしょ、王族とか警護する」

 パパの声は冷たかった。
「連邦軍の組織じゃないか。君は、今も軍人なのかね?」
「予備役登録してます」
「戦地で人を殺すことがあるかもしれないということだ」
 地雷を踏んでしまった。逆効果だった。

 パパの話は進むにつれて連邦軍批判を強めた。
「大体、軍隊という組織がおかしいんだ。人殺しの集団だぞ」
 レイターは黙って聞いている。実はレイターが現役の軍人だなんて知ったら、大変なことになりそうだ。

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「このアンタレス星系を見てみたまえ、独自の軍隊なんてなくてもきちんと機能している。なのに連邦軍が駐留しているのはまったくおかしな話だ。我々はアリオロンとの戦争と何の関係もないのに、負担だけ強いられて、いい迷惑だ」
「何の関係もない、ってことはねぇよ」
「どういう意味だ」
「戦争の余波は銀河中に広がっている。この星だってのがれられねぇ」
「そんなことはない。あるとすればそれは連邦に加盟したためだ」
「連邦に加盟しなきゃ、アリオロン同盟に攻められて今頃戦地になってたかも知れねぇぜ。アンタレスの技術は敵さんも欲しがってる」
 レイターの答えの方が正しい気がして、わたしは口を挟んだ。
「そうよ、永世中立を貫いているラールシータに初出張で行ったけれど、重力制御技術が欲しい連邦とアリオロンの綱引きにラールシータは巻き込まれてたわ」

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 パパは不満げな顔でわたしを見た。レイターの肩を持ったことが気に入らないみたいだ。
「ティリー、お前は戦争に反対じゃないのか?」
「反対に決まってるじゃない」
「そもそも軍隊がなければ戦争もないのに、連邦へ加盟したせいでおかしなことになっとるんだ」
 レイターはもう何も言わなかった。

 ママはレイターに「家に泊まっていけば」と提案してくれた。でも、パパは「絶対に駄目だ」といって譲らず、レイターはフェニックス号へ戻ることになった。きょうのところは攻略失敗だ。

 レイターを送って家の外へ出る。夜の九時を回っているけれど外はソラ系の夕方程度に明るい。
 小さく緑色に輝く恒星アンタレスBが昇りかけていた。緑夜だ。

「わたしたち、願い事はBの神様にするのよ」
 指を組むと、目を閉じてアンタレスBに顔を向けた。
「パパが許してくれますように」
 緑の太陽に向けて念を送る。久しぶりにアンタレスへ帰ってきたのだから、叶えてほしい。

 あすの夜にはフェニックス号で帰途に就く。   (9)へ続く

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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