
銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十二話(5) 同級生が言うことには
ティリーがエースとつきあっていないと聞いてレイターが驚いていた。
・第一話のスタート版
・第四十二話(1)(2)(3)(4)
レイターの奴、短く息を吐くと、真面目な顔して彼女に話しかけた。
「ティリーさん、恋の吊り橋効果って知ってるかい?」
おいおい、あいつオレの前でティリーさんに告るつもりかよ。ったく場所を選べよ。
「知らないけれど…」
ティリーさんがレイターをじっと見つめる。
その様子から確信する。ティリーさんもレイターのことが好きなんだ。
オレにここで二人の恋の証人になれ、ってことか。緊張してきた。
レイターが静かに語りだした。
「恋の吊り橋効果ってさ、二人で危険な吊り橋を渡ると、ドキドキして恋のような状態に陥る、って話なんだ。俺とティリーさんも吊り橋渡るような経験ばっかりしてきただろ」
ティリーさんがうなずく。二人は先週ゲリラに拉致されて脱出してきた。これまでにも何度も危険な目に遭ったと聞いた。そこから恋が生まれたってことか。
「だから、そういう心理状態に勘違いして陥っちゃったんだよな。恋じゃなくって心拍数による生物の反射的なもの、それだけのことなんだよ」
ん? 何を言い出すんだこいつは。
「お、おい、レイター」
「ティリーさんは、ちょっとフローラに似てたから声かけたんだ。フローラの身代わりってことさ。ティリーさんに興味があるわけじゃねえ」
「レ、レイター、止めろよ」
ティリーさんが立ち上がった。大きな目いっぱいに涙をためてる。
「そんなにフローラさんがいいんだ」
* *
レイターがじっとわたしを見つめた。
「ティリーさん、恋の吊り橋効果って知ってるかい?」
何を言い出したのかよくわからなかった。
真面目な表情に一瞬だけ期待した。けれど、みるまに打ち砕かれた。
「恋じゃなくって心拍数による生物の反射的なもの、それだけのことなんだよ」
どうやらレイターは、わたしたちの関係は、条件反射のようなもので、恋愛ではない、と言いたいようだ。
その吊り橋から生まれた感情は、その後どうなるのよ。
ちゃんと恋愛になる人だっているんでしょ。
吊り橋はあくまできっかけで。
って、反論しようと思ったわたしに、レイターはとどめを刺した。
「ティリーさんは、ちょっとフローラに似てたから声かけたんだ。死んだフローラの身代わりさ。ティリーさんに興味があるわけじゃねえ」
苛立ちを自分で抑えられない。
「そんなにフローラさんがいいんだ」
わたしは『愛しの君』すなわちフローラさんに似ている、と時々言われた。写真で見ても似ている気はしないのだけれど、兄であるアーサーさんにも言われたから、そうなのだろうという予感はあった。
けれど、これまで、レイター本人はそれを否定していた。そのレイターから、『フローラの身代わり』という言葉を浴びせられて、脳みそが沸騰した。
ぶくぶくと湧き上がる感情の泡が、パチンとはじけた。
レイターは、ずっとフローラの後を追って死のうとしていた。
許せない。
レイターを連れて行こうとするフローラも、後を追おうとするレイターも。
わたしはその時浮かんだことを、深く考えることなくレイターに投げつけた。
「レイターが、フローラさんをいくら追いかけたって、たとえ死んで追いかけたって、フローラさんには絶対会えないわよ。だって、フローラさんは天国にいるんだから」
言葉を発してからその重みに気づいたわたしは、あわてて口を押えた。
「ま、そうだな、俺は地獄行きだからな」
レイターはいつもと同じような軽口で答えた。でも、目は笑っていなかった。
わたしは今、レイターは天国に行けない、つまり、地獄に落ちる、とひどいことを言ってしまったのだ。
こんなことが言いたかったんじゃない。
フローラの後を追ってレイターに死んでほしくない。レイターが死んだら、わたしは悲しい、と言うことを伝えたかったのに。
その場にいたたまれなくなり、席を立った。
「わたしは、亡くなった方の代わりはできません。失礼します」
どうして、どうして、こんなことになってしまったのだろう。 (6)へ続く
裏話や雑談を掲載した公式ツイッターはこちら
・第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン
いいなと思ったら応援しよう!
