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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第四話(7) お出かけは教習船で

暴走族の黒玉が集まっているところへレイターは突風教習船を操り飛び込んでいった。
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<恋愛編>お出かけは教習船で (1)(2)(3)(4)(5)(6
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 この操縦が平気で絶叫マシンが怖い理由がわからない。

 猛スピードでアレグロさんを取り囲む敵陣の、ど真ん中を突っ切った。わたしは操縦桿をただ握っているだけだった。

 黒玉の動きが乱れた。黒玉のヘッドらしき人物の声が裏返っている。
「と、突風教習船! 裏将軍だ! ひ、引けぇ。戻るぞ」

 黒玉が撤退始めた。
 けれど、黒玉のうちの一機がわたしたちの船に近づいてきた。安くて新しい改造船。
「何だよ、このしょぼい教習船」

「ば、ばか、新入り逃げろ」
 敵のヘッドのあわてた声が聞こえる。
 かつて、飛ばし屋の間で名をとどろかせていた裏将軍の『突風教習船』。

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 でも、それは七年前の話。知らない若者には単なる教習船に見えるのだろう。

 レイターはちょっかいをかけてきた新入りに向けて、突っ込んでいった。
「退散しねぇと、ぶっ殺すっつったろが!」
「殺せるもんなら殺してみろよ」
 新入りはライトレーザーをやみくもに撃って挑発してきた。

 レイターはそれを全てかわし一瞬で近づく。人間業じゃない。仮でつないだ教官席だけで動かしている。
 感じる。やっぱりこの人はレーサーではなく戦闘機乗りなのだと。   

「マ、マジかよ? ぶつける気か」
 この船が普通じゃないことに気が付いた新入りが急いで機体を反転させた。

「逃がさねぇよ」
 レイターはぴったりと後ろにくっつけた。船間距離が近すぎる。なのに警報音は鳴らない。
 死に場所を求めて飛ばしていた突風教習船に安全装置はついていないということだ。

 新入りの操縦が乱れている。上下左右、振り切ろうとするけれど、どこへ飛ばしても教習船は牽引されているかのように離れない。
「あ、ありえねぇ」
 究極のあおり操縦にかわいそうなほどあせっている。 
 新入りの前に小惑星が迫っていた。教習船が挟み込む。

 レイターがわたしの操縦席まで手を伸ばしてきた。スイッチを押す。形の変わったライトレーザーが出てきた。
 この教習船にも積んでいたんだ。

「ぶっ殺すっつたろが」
 そう言いながらレイターがトリガーを引いた。白い光の束が発射された。
 え? まぶしい。これはライトレーザーじゃない。

 黒玉ヘッドの絶叫する声が響いた。
「本物のレーザー砲だ!!」
 光の束が、前を行く黒玉の新入りに向かっていく。

 ぶっ殺すって、ま、まさか撃ち落す気?
「レイター、やめて!」

n36@3白襟長袖口開けて怒る逆

 次の瞬間、直線番長がうなり、教習船が急旋回した。
 Gで身体がシートに押し付けられる。現場から一気に離れていく。緊張で息ができない。

 モニターが白く輝き、爆発の瞬間が映った。かけらが飛び散り、近くにいた黒丸たちの船に衝突する。

「あのかけら、結構船に傷が付くんだよな。ざまみやがれ」
 身体中から力が抜けた。

「びっくりするじゃないの!」
「あん?」
「こんなレーザー砲、積んでるなんて」
「違法じゃねぇよ。許可はとってある」
 この人はボディーガード協会のランク3Aだ。武器の携帯を許されている。

 身体の奥が震えている。落ち着こう。ゆっくりと息を吐く。
「怖かった」
「ごめん。Gがかかっちまったな」
「違う……」
 レイターがわたしの顔をのぞき込んだ。
「もしかして、ティリーさん。俺が、あいつらぶっ殺すと思った?」

n2@正面2@やや驚く

 わたしは目をそらして答えなかった。
 正直に伝えたらレイターを信じていない、と言うようなものだ。

 レイターが撃ったレーザー弾は、新入りの機体のすぐ脇、紙一枚というラインを通り過ぎ、そのまま、目の前に迫っていた小惑星に命中。小惑星は粉々に砕け散った。

 あのスピードで新入りの船が小惑星に激突していたら、大惨事になるところだった。
 レイターは小惑星をレーザー弾で撃ち砕くことでそれを救ったのだ。

「裏将軍、申し訳ございません。お許しください」
 黒玉たちは謝りながら一気に退散していった。   (8)へ続く

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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