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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(3)
新米警察官のマーシーはレイターに対し警護という名の監視をすることになった。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版
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「なあ、マーシー、頼むから船までエアカーを俺に運転させてくれ。その方があんた、警護しやすいだろ」
すっかり暗くなった警察署の駐車場でレイターが提案した。どうしたものかと迷ったが、彼が変な動きを見せたら公務執行妨害でその場で逮捕するだけだ。僕はマイカーの鍵を渡した。
「ったく、ティリーさんに心配かけちまったぜ。別れるとか言い出したら、機嫌取るのが大変なんだからな」
緑の髪に赤い瞳。僕たち警察の訪問に驚いていた彼女は順法意識の高いアンタレス人か。
運転席に座るレイターの横顔を見ながら、僕はついさっきパリス警部と二人で交わした会話を思い出し、緊張が高まるのを感じた。
警部の話は、僕の想像を越えたものだった。
*
「レイターの命が狙われる可能性があるから気をつけろ」
「何者なんですかあの男は。前科も無いようですけど、グレゴリーファミリーの下部組織構成員ですか?」
「あいつは、ダグ・グレゴリーの後釜候補だ」
僕は驚いた。そんな情報は初耳だ。
「ダグの後継はナンバーツーのスペンサー、というのが既定路線ですよね」
スペンサーはダグ・グレゴリーの右腕。姿を見せないダグの代わりにファミリーを仕切っている。
「表向きはな」
「ダグの跡を継ぐと言うことになると、グレゴリーファミリーの跡を継ぐだけでなく、次の『裏社会の帝王』という話になりますよ?」
警部は情報に自信があるようだが、簡単には納得がいかない。
「レイターは、昔ダグに、十億リルの懸賞金をかけられたんだ」
「十億の懸賞金?」
敵や裏切者に対しマフィアが懸賞金をかけることはあるが十億は高額すぎる。それと後釜という言葉は結びつかない。警部の話は矛盾している。
「お前も『緋の回状』は知ってるだろう」
「はい」
ダグ・グレゴリーが銀河中のマフィアに出すお触れのことだ。
「ダグは当時十二才のレイターの首を差し出せば十億リルを取らすと『緋の回状』を回したんだ」
「十二歳をですか?」
マフィアのドンが十二才の殺害命令に十億。尋常じゃない。警部は話を続けた。
「グレゴリー一家だけじゃない、銀河中のマフィアがなりふり構わずあいつを殺そうと追いかけた。そのせいで一般市民も巻き込まれて街中の治安がめちゃくちゃになった」
「それは、第三次裏社会抗争のことですか?」
警部はうなずいた。
十年以上前、警部が地球で勤務していた時に起きたマフィアの抗争だ。グレゴリーファミリーが一気に頂点に上り詰め、勢力図が一気に変わった。
「警察もレイターを保護できなかった」
「でも、彼は今も生きているじゃないですか?」
「裏社会抗争の時、あいつは爆発事故で死んだと思われていたんだ。レイターを狙っていた奴らが二十人も死んだという大事故で、『緋の回状』も取り下げられた。ところがあいつは生きのびていた」
「彼は今も命を狙われているわけですか?」
「いや、あいつが十六才でソラ系に戻ってきた時、その話は手打ちになっている。だが、とにかくあいつは注意人物なんだ。心していけ」
*
鼻歌を歌いながらエアカーを飛ばす彼のどこがそんなにすごいのだろうか。
腕につけた通信機が鳴った。警部からだ。声の調子があわてている。
「レイターはそこにいるか?」
「ええ、運転していますけど」
「すぐにやめさせろ」
「えっ?」
「いいから、すぐやめさせろ」
スピーカーをオンにして僕はレイターに言った。
「レイターさん、車を停めてください」 (4)へ続く
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