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銀河フェニックス物語<裏将軍編>風の香り、その後(下巻)
・銀河フェニックス物語 総目次
・裏将軍編のマガジン
・風の香り ・風の香り、その後(上)(中)
「どこに勤めるんだ?」
「クロノス社さ」
「え? 宇宙船メーカー最大手の?」
オレはびっくりした。
「そうさ、将軍家のコネだよコネ。で、クロノス社製のこのスピーダで通勤するんだぜ。俺って天才だろ、すごくね?」
すごいよすごい。
って言うか、オレは何とかハイスクールを卒業して、苦労して小さな映像会社に就職することが内定した。
こいつはハイスクール中退だけど、コネで超有名大企業に就職で、最高級船で通勤って、人生間違ってないか?
ってオレは叫びたくなった。
* *
レイターはジャック・トライムス将軍との会話を思い返していた。
ジャックから手渡されたカードがずっしりと重い。
俺の限定解除免許。俺が夢にまで見た本免許。銀色に光り輝いている。これがあれば俺はもう無免許じゃない。本物の操縦士だ。
「お前、これからどうするつもりだ?」
ジャックが聞いた。
「この免許さえあれば何とでもなる。俺は銀河一の操縦士だ」
俺は思った通りに答えた。
「銀河一の操縦士とは、何だ?」
アレグロやヘレンにも聞かれたな。俺は同じ答えをした。
「銀河一操縦が上手いのさ」
「S1に乗りたいのか?」
「子どもの頃は乗りたかったな」
正直に答えた。
「この間まで、あんなにバトルを繰り返していたじゃないか。レースがやりたいんじゃないのか?」
S1は確かに速い。飛ばし屋バトルの比じゃない。だけど、あれはスポーツだ。
「うーん。S1はルールが多すぎる。俺はもっと自由に飛びてぇんだ」
俺が求めているのは、操縦中の『あの感覚』だ。
時が止まる『あの感覚』を再現したい。ルールに縛られたS1じゃ多分あの境地に入るのは難しい。
「モリノ中佐がお前を呼びたがっている」
「副長が?」
モリノ中佐。俺がアーサーと一緒に乗っていた戦艦アレクサンドリア号の副長。今は戦闘機部隊の隊長を務めている。
「お前なら銀河一の戦闘機乗りになれると要請してきた」
「戦闘機は確かにありなんだよな」
俺は『あの感覚』をこれまでに二度感じた。
一度目はまさに戦闘機に乗っている時だった。生きるか死ぬかの境界線は感覚がギリギリまで研ぎ澄まされる。
ジャックが嬉しそうな顔をした。
「連邦軍の入隊なら簡単だ。わしの通信一本だぞ」
そりゃそうだ。ジャックあんたは元帥だ。
戦闘機乗りは銀河一上手い操縦士だ、だけど、俺の直感が違う、ってささやく。
「うーん、ちょっと待ってくれねぇか。俺、もう少し飛ばしを極めたいんだよ」
ジャックの顔が曇った。
「ふむ、じゃあ、予備役には登録しろ」
「わかった」
「有事があったら即モリノの所へ行かせてやる。それで、お前はどこで飛ばしを極めるつもりなんだ?」
答えに詰まった。
『あの感覚』を二度目に感じたのはフローラと飛ばした時だった。
俺が操縦したのは、戦闘機でもS1機でもねぇしょぼいファミリー船。なのに、信じられねぇぐらい幸せで、俺とフローラは船でつながってた。
俺は『あの感覚』を追求したい。
「戦地やレース場みたいな特別な場所じゃねぇんだよな」
「一般道か? 銀河警察の世話にはなるなよ」
「わあってるよ」
ジャックは思わぬことを口にした。
「お前、会社員になる気はあるか?」
「会社員・・・」
会社員と言う言葉には違和感があったが、最初はどこかに勤める事になるのだろうと漠然と思っていた。旅客会社、運送会社、免許さえあれば何とかなる。
いつか、金貯めて船買って、フリーの操縦士になる。
幼なじみのジムの父親は呑んだくれのどうしようも無い親父だったけど、自分の船で運び屋をやってるのが格好よくて俺には憧れだった。
「クロノス社に勤める気はないか?」
ジャックの提案に俺は脳天を叩かれた。宇宙船メーカー最大手の超一流会社。俺の選択肢の中にはなかった。
考えたこともなかったその会社名が、ぐいっと俺の心をつかんだ。
俺はフローラと約束した。
銀河一の操縦士になって、俺の船を買ってフローラと高知能民族のふるさとインタレスへ出かけると。
俺は船のことをもっともっと知りたい。
「行きてぇ」
気がついたら俺はそう答えていた。
「先日、クロノスの社長と会合で一緒になってな、船に詳しくて、船を愛している人材は大歓迎だそうだ」
ジャックの言葉はありがたかった。だが、冷静に考えたら有り得ない。
「あそこの会社、ハイスクール中退は採用してねぇだろ」
「だからわしが話をつけたんじゃないか。ま、コネと言う奴だ」
「ジャック!」
「一応、親代わりだからな」
と言ってジャックは笑った。
俺の後見人。家族がいない俺に書類上一番近い人物。
もうすぐ俺が待ち望んだ十八歳の誕生日がやってくる。
婚姻届けを出してフローラと家族になるはずだった日。だが、ジャックが俺の義理の父親になる日はもう来ねぇ。
ジャック、あんたは俺の家族じゃねぇ。
けど、俺はあんたのために命を捨ててもいい。この恩は一生かけて返させてもらう。
それでいいだろ、フローラ。もうちょっと、待っててくれ。 (おしまい) 時系列的には<会社員編>へ続きますが、次回の連載は<出会い編>「わたしをバトルに連れてって」です
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