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銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(43) 決別の儀式 レースの途中に

銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」①   
第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」①   (40) (41) (42)

* *


 エース、さすがあんたはS1の王者だ。試乗コースで対戦した時とは全然違う
 なんて言うんだっけ、風を得た鳥、水を得た魚か。S1という地の利を思う存分に生かしてやがる。

 一緒に飛ばしてるとわかるぜ、あんた人間より船が好きだろ。
 俺は必死になって船を取り込まなきゃなんねぇが、あんたは苦労せずに身体の一部のように船を動かせる。人馬一体ってやつだ。
 自分と船だけの世界に浸れる突出した才能。S1の申し子。

 師匠のカーペンターとそっくりだ。

エースとカーペンター

 人付き合いが苦手だったカーペンター。船の気持ちは、誰よりわかってた。『超速』と呼ばれ、S1レースの中で何度も『あの感覚』で飛ばしてた。

 弟子の俺だってできるはずだ。

 俺は、エース、あんたとの真剣勝負の中で、『あの感覚』を呼びこむ。

 俺が追う。あんたが逃げる。
 あんたは今、これ以上ない、いい飛ばしをしている。
 最終戦にふさわしい、一ミリも迷いのないライン。惚れ惚れする。

 そして、それを追いかける俺の能力が、最大限まで引き上げられていく。
 全知全能の『あの感覚』まで、あと少しだ。


* *


 ラスト一周。

『ホームストレートにトップ争いの二機が入ってきました。無敗の貴公子最後のレースで、新人レーサーのレイター・フェニックスが追い詰めています。スピードと技術。人間業とは思えないデッドヒート。新たな時代の幕開けを予感させます。これは、すごい、見たことがない世界です…』
 アナウンサーの実況が途切れた。
『僕はアナウンサー失格です。この素晴らしいレースを言葉で表現できません。ただ、このレースに見入ってしまう。沈黙、おそらくそれが一番皆さんに伝わると思います…』

 第一カメラのモニターを見つめながらスチュワートはつぶやいた。
「すごいな。こんな世界が見られて俺は幸せだ」  

n65スチュワートシャツ前目真面目色

 さっきまでのオクダとエースの競り合いが、子どもの遊びに見えてくる。
 『無敗の貴公子』と『銀河一の操縦士』の頂上決戦。

 これは間違いなくS1史に残る戦いだ。


 学生時代に情報プラットフォームの起業で成功した俺は、莫大な資産を手にした。
 このカネで次々と色々な事業に手を出した。多角経営という奴だ。リスクもヘッジできる。
 うまくいかない事業はすぐに売りに出した。

 次は何に投資をしようか考える中で、S1チームを持つことを思いついた。
 俺は宇宙船レースが好きだ。それだけ理由があれば十分だ。
 レーサーのコルバが契約していた弱小チームを安く買収し、ここにいるアラン・ガランとオットーをメカニックとして雇った。

コルバ3S

 だが、S1の世界は甘くなかった。予選落ちが続いた。
 経済記者たちはこのS1チームも、すぐに売却するだろうと記事にしていた。
 だが、俺は、このチームを売る気にならなかった。
 成績は振るわなかったが、チャレンジングな俺の性格と俺のチームは息が合っていた。
 アラン・ガランの卓越した発想とオットーの緻密な計算に、レース業界があたふたするのは痛快だ。
 会社の事業とは切り離した俺の道楽。俺は個人資産のかなりの額を注ぎ込んだ。

 面白がる奴はどこにでもいる。こんな弱小チームにもファンがつきだした。入賞するようになると、俺のチームはさらに注目を集めるようになりスポンサーもついた。
 だが、万年六位で満足はしない。

 俺は攻めるのが好きだ。
 狙うは優勝。

 ずっとレイターを、S1に乗せたいと思っていた。

18クロノス正面18歳@3後ろ目にやり

 無敗の貴公子を破るのは、銀河一の操縦士しかいない。
 その夢が六年越しで叶う。

 第三コーナー、つづら折りのヘアピンカーブ。
 紙一枚の誤差で事故につながる。よくこの緊張の中でミスをしないで飛ばせるもんだ。先を行くエースにレイターが圧力をかける。

 最後のコーナーガード柵を抜けたところで、レイターが追い越しをかける。二機が並んだ。

 メガマンモスがうなる。レイターがエースの一歩前へ出る。
「よし!」
 俺は、S1やっててよかった。     (44)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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