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銀河フェニックス物語<少年編>第十二話 図書館で至福の時間を(2)

図書館での調査を命じられたアーサーは、レイターを連れていくことになった。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十二話「図書館で至福の時間を」 (1
<少年編>マガジン

 子どもの頃から図書館が好きだった。
 自宅である『月の屋敷』にも大量の紙の書物が保管されていたが、図書館は桁違いだ。広い空間に溢れる蔵書に囲まれていると自分の生物学的寿命に比べて情報の海が広すぎることを痛感する。

 この図書館にあるすべての内容を電子チップに入力にすれば、物理的には片手に収まってしまうだろう。
 だが、紙に印字され本として可視化されているからわかる。その情報量の膨大さ。自分は世界のことを何も知らないということが。

 目当ての資料を申請して閲覧用個室に入る。

 分厚い紙の束が机に置かれていた。地方星系ガダガの政務会議議事録。辺境のガダガでは我が連邦とアリオロン同盟のどちらにつくかで内戦が勃発した。
 議事録の概要版は情報ネットに公開されているが本文はあがっていない。この図書館では学術用に議事録詳細版の閲覧が可能になっていた。複製は不可だ。資料を一ページずつめくって覚える。僕は一目見れば記憶し忘れることはないが、物理的に見るという作業には時間がかかる。
 概要版では明かされていなかった発言者の実名を見落とさないようにする。

 防音ブースでは紙のすれる音が存在感を持って迫ってくる。
 デジタルスクロールより紙に触れる方が僕は好きだ。ページごとの触感の違いが記憶とリンクするのかも知れない。

 ガダガにおける戦況はよくない。現在の後方支援から、いずれは連邦軍本体の介入が必要になりそうだが、議事録を見る限り連邦支持派の現政府も一枚岩ではない。

 同じ姿勢で読み続けたせいか身体がこわばっていた。首を回して血流をうながす。
 疲れた。資料は読み終えたが、必要とする情報を後で書き起こさなければならない。

 レイターはモニタールームでおとなしくしているだろうか。
 ブースをのぞくと姿が見当たらなかった。あいつ、どこへ行った。きょうは面倒はごめんだ。
「S1のレース動画を借りた少年を知りませんか?」
 司書の女性は笑顔を見せた。
「あら、お友だち? 彼なら中央閲覧室へ行きましたよ」
 友だち、という聞き慣れない言葉に身体が硬直する。僕らはそういう関係性に見えるのだろうか。友だちではありません、と否定したい気持ちをこらえて礼を伝える。

 レイターの奴、大量のレースをどれだけの倍速で観たのだろうか。
 館内で問題が起きているような騒がしさはない。しかしあいつはトラブルメーカーだ。

 足音を立てないように中央閲覧室に入る。天井が高く荘厳な雰囲気は宗教施設を想起させる。
 大きな机の周りに、社会人、学生、子どもたちが一列に腰掛けそれぞれが本の世界に浸っていた。

 その中にレイターは溶け込んでいた。あまりに自然な様子に、思わず見落とすところだった。

 本嫌いの彼が熱心にページをめくっている。一体何を読んでいるのだろうか。僕はそっと近づいた。

 レイターの背後から読んでいる本を見て
「ほぅ」
 思わず僕は小さな声をあげてしまった。  (3)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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