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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第六話 父の出張(16)
ティリーとペアを組んでレイターもテニスをやることになった。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① ② (12)(13)(14)(15)
<恋愛編>のマガジン
レイターが動いた。素早い。
「ほれっ」
変な構えからバックハンドできれいに合わせる。
スパーン。
気持ちのいい音を立てて、相手コートの角へボールが飛んだ。さすが、運動神経の塊だ。
レシーブエース、かと思いきや、アンドレがぎりぎり追いついて打ち返してきた。
わたしの方へ来た。簡単な球だ。とらなきゃ。ラケットに当たった。
よし、と思ったのだけれど。
「ネット」
自動判定審判の音声が響いた。あ、失敗。せっかく、レイターがきれいに返したのに。
「ご、ごめん」
「謝るなよ。あんたが運動音痴なことは想定の範囲内だ」
失礼なレイターの反応はいつもと変わらない。それにしても新鮮だ。二人でテニスができるなんて。アンタレスに帰ってきてよかった。
バスケ部だったレイターとバスケはやったことがある。これからはテニスにも付き合ってもらおう。
次は、わたしがレシーブだ。
リオがトスを上げた。今度こそ取る。
と思ったのに、コートに突き刺さるような弾に、身体が動かない。
「フォルト」
わずかにはずれた。ふぅ、と安堵の息が漏れた。
「あんた、肩に力が入りすぎ」
レイターの言う通りだ。肩を上下に軽く動かす。
セカンドサーブは威力が弱い。
かろうじて、ラケットに当たった。
返った。
いや、まずい、山なりのボールがアンドレの前に飛んだ。あちゃあ。相手のチャンスボールだ。
ビシッツ!!
アンドレがスマッシュを打つ。やられた!
とその時
パーン
え? 後方に下がっていたレイターが打ち返した。うそでしょ。
アンドレもリオも一歩も動けない。コーナーぎりぎり。
「アウト」
審判の機械音声が響く。わずかにラインを越えていた。
「ちっ、やっぱ調子悪りぃな」
レイターがラケットで肩を叩いている。
この人の運動能力が高いことは知っているけれど、アンドレのスマッシュを打ち返すなんて、経験者でも普通は無理だ。
「これ以上点はやらねぇぜ」
レイターは言葉どおり、リオのサーブからリターンエースを奪った。
一方で、わたしのレシーブはどうしようもない。リオのサーブに歯が立たない。見る間に1ゲームを取られた。
サーブ権が移ってきた。次はわたしのサーブだ。
威力はないけれど、丁寧さだけが持ち味。
ファーストサーブが入る。
リターンが返ってきた。
「そぉりゃあ」
レイターは構えは適当で素人にしか見えないのに、きっちり速い球を打ち返していた。ポイントをとる。
「レイター、ありがとう」
「こちとら肉体労働者だぜ、頭脳労働者に負けられっかよ」
確かにアンドレは研究者で頭脳労働者だけど、ハイスクール選手権六位入賞者なのだ。そのアンドレが押されている。どれだけ重い球なのだろう。
レイターの動きはめちゃくちゃなのに無駄がない。アンドレのような華麗さはないけれど、荒々しくそれでいて美しい。つい目の端で見とれてしまう。
フェニックス号で訓練するレイターが頭に浮かんだ。触れたら火傷するレーザー光線を使った真剣なメニュー。
ボディーガードの仕事は死に直結する。反射神経も筋力も生きるために鍛え上げられている。「プロ」という文字が頭の中で像を結んだ。
(17)へ続く
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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