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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(21)
部屋に戻ったアーサーがハヤタマ殿下にもらったデジタルアートを机に飾ると、レイターが声をかけてきた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」
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<少年編>マガジン
レイターの視線の先に殿下が描いたデジタルアートがあった。
「お前、芸術がわかるのか?」
「まったく興味ねぇし、絵なんて全然好きじゃねぇよ。けど、そいつは高く売れそうだ。競売にかけたら最低でも五千万リルってとこだろ。描いた奴が有名人なら、さらに跳ね上がるぞ」
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意外なことにレイターの見立てはかなりいい線を言っている。
「オークションに詳しいのか?」
レイターは眉をひそめた。
「まぁ、俺が知ってるのは盗品の闇市場だけどな。ダグは絵画やら宝石やら美術品を買っては、贋作いっぱい作らせてたんだ。宇宙船のプラモ作るために工房へよくついてったんだけどさ、毎回どっちが本物かってクイズ出されて、当たらねぇと工作機械を使わせてくれねぇのさ。嫌がらせだよ。はずすとダグが帰るまで絵でも見てるしかねぇから退屈で、ほんと必死で答えたぜ」
幼いころから本物を見て育つと目利きになるという。ダグ・グレゴリーとしてはレイターを裏社会の後継者とするための教育だったのだろう。
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ハヤタマ殿下の芸術性は思わぬところで裏付けられたようだ。盗品市場で五千万リルか。こいつなら勝手に売りかねない。
「念のために言っておくが、盗むなよ」
「あんた、俺のことわかってねぇな。それ、原画指定されてんだろ。普通の流通には乗せられねぇよ。盗んだところでダグがいる闇市場に近づけねぇんだ。売れねぇものなんて盗まねぇよ」
「売れるものも盗むんじゃない! この艦から追い出すぞ」
*
業務端末を開く。
コルバ機の航行ログを見て思わず苦笑した。レイターの奴、証拠隠滅の仕事が早すぎる。アリオロン機の噴射口へ向けてレーザー弾を撃ったのはコルバではなく後部座席のレイターに違いない。ログで確認したかったのだが、すでにきれいに改ざんされた後だった。
女王のフチチ十四世から謝意の私信が届いていた。
『愚息のハヤタマを救出いただきありがとうございました。連邦軍にはご尽力いただき、母としてはお詫びと感謝を申し上げるしかございません』
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僕は想像する。もし、あのままハヤタマ殿下が鮫ノ口暗黒星雲の向こうへ連れ去られ、敵の捕虜となったら女王はどうされただろうか。おそらくは人質をめぐる交渉で彼女は一切妥協されないのだろう。たとえ息子が殺されてもフチチを守る。民の命を預かる統治者としてはその覚悟があり、非情な母の判断をハヤタマ殿下も受け入れるに違いない。
僕が捕虜となっても同じだ。父上は僕が殺されても連邦軍を守る。それが正しいかどうかではない。それが、与えられた役割なのだ。
窓の外に無管轄宙域の鮫ノ口暗黒星雲が見えた。
グリロット中尉が領空侵犯した真の目的が知りたい。アリオロン軍はおそらく連邦軍の研究所と同じことを考えている。
暗黒星雲を利用した亜空間破壊兵器の開発。
まだ理論の段階だが、これが完成したら銀河は崩壊の危機に立つ。 (22)へ続く
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