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銀河フェニックス物語<少年編>第八話(5)ムーサの微笑み

ピアノを母親に教わったというレイターは驚くほど器用に鍵盤を操った。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>「ムーサの微笑み」 (1)(2)(3)(4
<少年編>マガジン


  一時期とは言え僕はプロだった。歌で生計を立てていた。
  音楽の女神ムーサに、魂を売ってもいいと、音の世界にのめり込んだ。
 だからわかる。

 レイターには音楽的な才能がある。
 本人は気づいていないが音楽理論もコード進行も身についていた。耳もいい。

 セントラル音楽学院で学んだ、と言う母親のセンスを受け継いでいるのだろうか。
「お前さん、どうやってコードを覚えたんだい?」

ヌイ後ろ目驚く逆

「俺んち、宇宙港の横だから警笛で船を当てるんだ。Cはカナディアン号、Dはドイッチュラント号って母さんが教えてくれた」
 地球発の公共宇宙船名か。

 レイターは大人も顔負けなぐらい宇宙船に詳しい、いわゆる宇宙船オタクだ。船の頭文字と警笛のコードを紐づけて覚えさせたということだ。
 音楽教師だったレイターの母親は教育者として優秀だったとしか言いようがない。

 幼いころから音楽に恵まれた環境だったのだろうな。レイターは編曲だけじゃない。自ら旋律を作るのも上手い。
 ムーサがレイターに微笑んでいる。僕が羨ましく思うほどに。 

ピアノを弾く手チェックキーボード

 だが、レイターは文学的な才能はゼロに等しかった。
 何だよこの作詞は。『かえるの合唱』かよ。折角のメロディーが台無しだ。

 十ニ歳、まだ子どもだから仕方ないのかも知れない。  

 僕自身はませた十二歳だったと思う。

 レイターの年の頃には、大人びた歌詞の拙いラブソングを作っていた。
 気になる女の子もいて、揺れる自分の心を音と言葉の両面から表現したいともがいていた。
 女神ムーサに捧げるための詩を、必死になって紡いでいた。

 レイターはムーサに魂を捧げるつもりはまるでない。何て勿体ないんだろう。こんなに才能にあふれているのに。

「お前さん、ちゃんと音楽の勉強をしたらいいんじゃないのかい?」
「あん? 必要ねぇよ。音楽は好きだけど、俺は『銀河一の操縦士』になるんだから」
 それがレイターの口癖だった。

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 鍵盤楽器の扱いは、僕では太刀打ちできない。きちんとした先生に師事すればプロのピアニストにだってなれるレベルだ。
 僕は残念に思った。


 

 レイターは部屋に来ると必ず、キーボード鍵盤で運指練習をする様になった。が、相変わらずピアノ曲を僕たちに聞かせることはなかった。
「お前さん、どうして鍵盤の演奏を聞かせてくれないんだい」

 レイターは少し間をおいてから答えた。
「母さんに人前で弾くな、って言われてたんだ」
 愛しい母上の遺言なのか。
「どうして?」
「う~ん、速く弾けばいいってもんじゃない、ってことらしいけど、よくわかんねぇ」
「確かにお前さんは速弾きが上手いね」
 レイターは嬉しそうな顔をした。
「俺、曲を弾くより運指練習が好きなんだ」

ハイスクール3のレイター

「珍しいな」
 普通は練習を嫌がるものだ。
「だって、ピアノって音ゲーだろ。間違えねぇように、速く鍵盤を押せばいいんだから。ゆっくりした曲を弾くより、タイムアタックやるとみんな盛り上がって喜ぶぜ」 

 ムーサが困った顔をしてレイターを見ていた。レイターの母親とムーサが重なる。
 鍵盤の演奏技術は卓越しているが、精神や感情を表現する芸術性が抜け落ちているという事だ。

 レイターは運指練習の後、ギターを弾いて、歌って、最後はバルダンと格闘技の真似事をして帰っていく。
「ここはお前の遊び場ではない」

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 と、バルダンは真面目な顔をして言うのだけれど、一番楽しんでいるのはバルダンに見えた。    (6)へ続く

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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