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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第六話(1) 父の出張
大手宇宙船メーカークロノス社に勤めるティリーはフリーランスの操縦士レイターとつきあうことになり、恋に仕事に忙しい毎日を送っていた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第四話「お出かけは教習船で」
<恋愛編>のマガジン
「ティリーさん、あんた後をつけられてるぞ」
自宅に来るなり開口一番レイターが言った。
「え? どういうこと」
「あんたのこと嗅ぎまわってる奴がいる」
「気持ち悪いこと言わないでよ」
きょうの夜はレイターの友人ロッキーさんと、三人で食事をしようと約束している。
レイターが家まで迎えにきてくれたのだけれど。
「とにかく、表へ出るぜ」
レイターと並んでエントランスから外へ出た。ピリピリしているのが伝わってくる。
「気にいらねぇ、様子をうかがってやがる」
「ほんとなの?」
わたしには全くわからない。
「俺はプロだぜ、引っつかまえてやる。いいか、そこの角、曲がったら走るからな」
レイターが、わたしの手を引いて小道に入り込む。全速力で走る。
すぐに曲がって曲がって、もとの大通りに出る。
わたしたちが曲がった角に、スーツ姿の男性の人影があった。あ、あれは……
「あんた、誰、探してんだよ?」
レイターが襟をつかんで締めあげた。
「き、貴様こそ、何者だ?! 許せん」
「あん? 何が許せんだ、それはこっちの台詞だ」
「パパっ!!」
わたしは大きな声で呼んだ。
「パパ?」
レイターが驚いた顔をして手を離す。
「ティリー! 何なんだこいつは! 出張帰りに寄ってみれば」
パパが真っ赤な顔をして怒鳴った。
「落ち着いて、彼はわたしの彼氏なの」
「か、彼氏だと! おまえ、こんな奴とつきあってるのか?」
「こんな奴で悪かったな」
「暴力を振るうのは最低だ」
「まだ、殴ってねぇだろが」
わたしはあわてて二人の間に入った。
「パパ、ちゃんと紹介するわ。彼は操縦士でボディーガードのレイター・フェニックスさん」
ばつが悪そうにレイターが軽く会釈した。
「どうも、銀河一の操縦士です」
まずい、第一印象が最悪だ。
「ティリー、おまえ、社長さんとの話はどうなったんだ?」
「社長さん?」
「おまえの会社の社長さんとお付き合いしとると聞いていたのに」
パパが言う「社長」というのは、わたしの推し『無敗の貴公子』エース・ギリアムのことだ。私が勤めるクロノス社の社長で、前にわたしとの交際報道が出たことがある。と言ってもわたしの名前はでなかったから、パパたちには何も話していなかった。
遠いアンタレスまで届いているはずがない、と思っていたのに。
「お前は、あの社長さんを追いかけて家を出て行ったじゃないか」
推しの会社で働きたいと、地元アンタレスの企業の内定を蹴り、パパとは喧嘩別れのような状態でソラ系まで出てきたのだ。
といっても、そもそもエースとわたしはつきあっていない。これは説明がめんどくさい。
「とにかく、あの話は終わったの」
「それで、社長さんじゃなく、こんな奴とつきあってるということか?」「こんな奴とか言わないで。わたしはエースじゃなくて、この人とつきあうことにしたんだから」
「それは良かった」
パパの反応に拍子抜けした。真面目でうるさい人だから、レイターのことを簡単に認めてくれるとは思ってなかった。
「およっ? 親父さん話がわかるじゃん」
「社長さんとつきあうとなると、住む世界が違うだろう。おまえがいろいろ苦労すると思ったんだが、あまりに条件が良すぎて、どう断っていいのか悩んでいたんだ。それに引き替え、こんな奴なら正面切って反対できるわい」 (2)へ続く
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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