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銀河フェニックス物語<少年編> 第一話(5) 大きなネズミは小さなネズミ
アレック艦長はアーサーの部屋にレイターを住まわせるよう命じた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・「大きなネズミは小さなネズミ」まとめ読み版 (1)(2)(3)(4)
・<少年編>のマガジン
僕は二人部屋を一人で使っていた。
アレック艦長は前から僕の部屋を二人部屋にしたがっていた。だが、乗組員たちは将軍の息子である僕に気を使って、誰も希望せず相手が見つからないでいた。
「やったぁ! ベッドだ」
レイターは狭い二段ベッドを見てはしゃいでいた。
「上と下とどちらがいい?」
「上に決まってるだろ」
僕の返事も聞かずに彼は上に上った。
「ここからなら、あんたを見下ろせる」
僕の顔を見ながら彼は笑った。
「ふああぁ。ベッドで寝るのは三ヶ月ぶりだぜ」
三ヶ月ぶり? この艦が出港して二週間。彼は一体どういう生活を送っていたのだろう。浮浪児か。死語のような言葉が浮かぶ。
彼は横になったと思うと、すぐに寝息を立てた。警戒心というものが感じられない。
一方で僕は落ち着かなかった。
寝ているうちに彼に何をされるか、わかったもんじゃない。武器の保管庫の個人認証を念入りにチェックする。僕は私物をほとんど持たない。この部屋に武器になりそうなものはない。
これも訓練だ。僕は自分に言い聞かせながらベッドに入った。
*
この艦の侵入者に対するセキュリティはかなり甘かったと言わざるを得ない。二週間もの間、レイターは、小さな体を利用して通気ダクトや配線溝の中で暮らしていたという。
そして、必要に応じて、食事や排泄、シャワーを浴びるために、この船の中を歩き回っていたらしい。まさにネズミだ。
彼はこの艦の構造を理解していたし、我々乗組員の名前もほとんど覚えていた。
「だって、あんたたち上官の部屋に入るとき名乗るじゃん」
しかも、個人の行動パターンも把握していた。
「決まった時間に決まったことしてるんだから、そりゃ、バカでも覚えるさ」
ザブリートさんが食糧庫へ向かう時間もその中で見つけたという。
彼は自分なりに分析して人が現れない時間帯に艦内を歩いていた。幼い見かけより随分頭が切れる。何か目的があって乗り込んだんじゃないだろうか。
アレック艦長に僕の懸念を伝えた。
「レイター・フェニックスを艦に残して大丈夫でしょうか?」
「アーサー、おまえ何をそんなに心配している。あいつは二週間、好き勝手にこの艦の中を歩いていたんだろ」
「ええ」
「目的があって乗り込んだとは思えんな」
「そうでしょうか?」
「例えば俺を暗殺するのが目的だったら、すでにできたはずだ。だが、奴は何もしていない。時期を見てるにしては長すぎるんだよ。俺の直感が大丈夫だと言っとる」
「……」
「あんなガキのために銀河警察を呼ぶのも面倒だ。家出人の捜索願いが来たら対応すればいい。大体、二週間も不審者が艦内をうろついていた、ってどうやって報告書に書くんだよ? 役に立たなきゃ次の停留地で捨てればいいさ」
相変わらずアレック大佐は行き当たりばったりだ。
レイターがアレクサンドリア号のアルバイトとして働くための契約書の日付は、艦の出航前に捏造されていた。
大佐は詰めが甘い。というかあの人はいつも直感で動いている。昔からそうだ。レイターのことを偽名だと思い込んでいるから「該当者なし」の照会を疑おうともしない。
レイターの両親が死んだというのも嘘じゃないだろうか? 僕は彼について調べることにした。 (6)へ続く
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