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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第六話 父の出張(14)
ティリーは故郷の友人たちとテニスをすることになった。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① ② (12)(13)
<恋愛編>のマガジン
* *
大きな木の陰にベンチはあった。アンタレスAの赤い直射日光がちょうど遮られる。
レイターが座る隣にティリーの母親、その隣に父親が並んで腰掛けた。
「アンドレ君は立派になったなあ」
母親に同意を求める父親の声は、十分レイターに届く大きさだった。
レイターはアンドレがティリーの両親を「お父さん、お母さん」と呼んでいたことを思い出した。
母親がレイターに話しかける。
「ご存じかも知れないけれど、アンドレ君は学生時代、ティリーのボーイフレンドだったのよ。よくうちにも遊びに来てて」
父親が母親に聞いた。
「どうして二人は別れたんだ?」
「アンドレ君は地元の研究所に就職したし、ティリーはソラ系へ出て行きましたもの。遠距離で自然消滅したって聞きましたよ」
「そうか、じゃあ、ティリーが戻ってくれば寄りを戻すかも知れんな」
「何、勝手なこと言ってやがる」
レイターが聞こえるようにつぶやく。
「わしはティリーがソラ系へ行くのに反対だったんだ。心配どおりにこんな奴に引っかかりおって」
「こんな奴ってどんな奴だよ」
レイターが口を尖らせた。
「ティリーにはただ普通に幸せになって欲しいだけだ。お前は知らないだろうが、アンドレ君はなあ、品行方正で成績優秀、学生時代には生徒会長も務めて、今も研究所の有望株だ。ハイスクール中退の暴走族とは全然違うんだよ。ご両親も立派な方で」
「悪かったな、俺に親はいねぇっつったろ」
「お父さん、やめてちょうだい」
ティリーの母はレイターを心配そうに見つめた。
* *
「久しぶりだね、ティリー」
アンドレの声を聞いたのは卒業以来だ。毎日おしゃべりをしたあの頃と、優しい雰囲気は全然変わっていない。
「アンドレも元気そう。テニス続けていたのね」
「ああ、たまにこうしてみんなで集まっているから、今度はティリーにも声をかけるよ」
「ありがと。あまり帰ってはこられないけど」
社交辞令のような挨拶。けれど、普通の顔で話せてよかった。
レイターの視線を感じる。わたしとアンドレの会話が気になるのだろうか。リオが言った修羅場という言葉が頭に浮かんだ。
いや、アンドレとわたしの関係は今は友人だ。レイターとの間でもめる要素はない。
レンタルしたシューズとラケットは悪くなかった。
軽くアンドレとボールを打ち合う。アンドレは相変わらず上手だ。久しぶりにラケットを握るわたしでも打ちやすいところへ返してくれる。昔もこうやってよく打ちあった。気持ちが通う心地よさ。ラリーが続けば続くほど、アルバムを開くような懐かしさに包まれる。
過去が美化されているのかも知れないけれど、アンドレとの間に、嫌な思いをした記憶がまるでない。
* *
レイターの目に映るティリーは普段とは違っていた。
昔の仲間と一緒だからか、いつもみたいに背伸びしてねぇな。笑顔が無防備だ。薄桃色のレンタルウエアがよく似合ってる。ラケットを振る姿はお世辞にもうまいとは言えねぇが、テニスの経験者だってことはわかる。ポニーテールが揺れてかわいい。
元カレか。
前に話を聞いたな。絵に描いたような優等生の彼氏。
テニス部のキャプテンだっただけのことはある。どんくさいティリーさんをうまくリードしてやがる。
俺の隣で、ティリーさんの両親が目を細めて娘のプレーを見つめてる。
『ティリーにはただ普通に幸せになって欲しいだけだ』
親父さんの願いが理解できねぇわけじゃない。
この家族の近くにいると、息苦しくなるほど押し寄せてくる。アンタレスの普通の生活の中にある幸せって奴が。 (15)へ続く
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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