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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(22)
襲ってきた大規模暴走族のジャイアントがレイターのことを『裏将軍』と呼んだ。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版① ② ③
警察で配られた暴走族動向に『裏将軍』という名前が出ていたことを思い出した。六年前に飛ばし屋を統一したという伝説のチーム『ギャラクシー・フェニックス』のリーダー『裏将軍』が復活したという話だった。
僕はたずねた。
「レイター、君が『裏将軍』なのかい?」
「違うよ。見ての通り、俺は普通の社会人さ」
いや、普通の社会人には見えない。
ジムがレイターに詰め寄る。
「何、言ってるんすか? 『裏将軍』に復活したんスよね?」
「してねぇよ」
「ファミリーん中でも噂になってたッスよ」
「してねぇ、つってるだろが!」
ドスの聞いた声に、ジムが目を白黒させている。今のは僕も怖かった。どう見てもカタギじゃない。
「ジャイアントの奴はでかい身体の割に気が小せえ。自分のテリトリーから外には出ねぇから、この小惑星帯をぶっちぎって逃げりゃ終わりさ。警備艇はついてこれなけりゃ後から合流しろ」
レイターがヘッドフォンを着けて操縦席に座った。マザーが流していた音声データが消えた。
「シートベルトしっかりつけてろよ。行くぜ!」
フェニックス号のスピードが上がる。
通信機からジャイアントの声がした。
「裏将軍、逃げるのか?」
ジャイアントたちが集団で追いかけてきた。
目の前に小惑星が迫る。恐ろしいスピードだ。思わず目を閉じそうになる。スレスレでかわし最短距離で進んでいく。
交通機動隊でもこの速度には追いつけないだろう。お供の警備艇はどこかへ置いて行かれてしまった。
そうだ、レイターは銀河最速のS1レーサー、プロだったのだ。
ヘッドフォンをした彼は目を閉じて操縦していた。目が見えていないのだから閉じていても一緒なのだろうが、こちらはハラハラする。一つ間違ったら大事故だ。
前から複数の船が飛んできた。大入道のマークが見える。
「挟み撃ちだ。危ないぞ!」
警告する僕の声はレイターには全く聞こえていないようだ。
そのまま、挟み撃ちの集団へ突っ込んでいく。
これはチキンレースだ。どっちがよける?
レイターを信じるしかない。
ぶつかる寸前、前から来たジャイアントの船が避けて道を開けた。
そのままフェニックス号は集団の間を突っ切る。猛加速で通り抜けていく。
そのまま小惑星をよけながら飛び続ける。この船のあとについてこられたのは一隻だけだった。
ジャイアントの頭が乗っている中型船だ。
このあたりは彼らのシマだ。飛ばし慣れているのだろう。
だが、その速度をフェニックス号は上回っていた。このままいけば引き離せる。
小惑星帯では亜空間に入れない。とにかくここを抜けてしまうことだ。
通信機からジャイアントの声がした。
「待ちやがれ。チビ」
レイターがぴくりと反応した。フェニックス号を急停止させる。
「チビだと?」
「ジャイアントって、レイターに勝てないくせに、いつもチビチビって馬鹿にしてたんスよね」
「ジム、黙れ」
レイターが不機嫌そうな顔をした。
「あの頃は、おいらより背が低かったし」
「黙れっつったろが」
レイターがジムの頭をはたいた。
「マジ、痛えッス」
ジムが泣きそうな顔をした。
レイターは、僕より長身だが、パリス警部もダグ・グレゴリーもみんな彼を見て開口一番『大きくなった』と言っていた。
少年時代は背が低かったようだ。
「おいチビ。サシで勝負しねぇか」
「チビチビ、うるせぇんだよ」
ジャイアントの挑発にレイターが腹を立てているのはわかるが、ここは先へ急ぐべきだ。
と思ったところで、レイターは船を反転させた。信じられない。
「鬼ごっこも逃げてばかりじゃつまんねぇよな」 (23)へ続く
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