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銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十話(7) さよならは別れの言葉
過去のレイターの替え玉出場をどのタイミングでオープンにするか専務のエースは悩んでいた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・第四十話(1)(2)(3)(4)(5)(6)
「後からばれるのはまずいだろ? レイターとの過去の対戦もこうやって表に出たわけだし。こちらからS1協会へ申し出て、規定違反の罰金を支払えば出場停止処分にはならない」
「しかし『無敗の貴公子』のイメージダウンは避けられません」
エースはゆっくりと答えた。
「僕はきのうレイターに勝った。だから、もう構わない」
自信にあふれた声だった。エースがレイターと戦いたかった理由がわかった。
過去の敗戦や、レースでの替え玉が明らかになっても、エースがレイターに公式に勝った今であれば『無敗』のブランドイメージは崩れない。
もう一人の副社長、研究所のサパライアン所長がにこにこしながら発言した。
「あいつを、レイターをうちへ正式に引っ張りますか?」
わたしの胸がドキっと鳴った。
つまり、クロノス社のレーサーとして引き抜くということだ。
「それも選択肢の一つだ」
エースが答えた。
「こりゃ楽しいな。またクロノスの連勝時代が来るぞ」
サパライアン副社長はうれしそうだ。サパライアン副社長は、レイターがサッパちゃんと呼ぶほど親しい間柄だ。
アリ副社長が意見した。
「個人的にはレイターを雇うことに反対です」
やり手のアリ副社長の派閥筆頭はフレッド先輩だ。
レイターとはそりが合わない。
「彼は素行が悪い。『無敗の貴公子』で築いてきたブランドイメージと離れすぎています」
アリ副社長の言うとおりだ。レイターに貴公子と言う言葉は似合わない。
「しかも、契約金交渉がどうなることか」
サパライアン副社長が笑った。
「ハハハ…ぼったくられるだろうなぁ。だが、払う価値はあるよ。あいつは広告塔としてもってこいだ。『裏将軍』ブランドの船なんて考えただけでもゾクゾクするね。二年前のS1プライムだって存分に利用できる」
アリ副社長は苦々しそうな顔をしていた。
エースが決断した。
「これはビジネスチャンスだ。秘密裏にレイターとの交渉を急ごう」
サパライアン副社長の顔が曇った。
「ただ、レイターの奴、昨日から全く連絡が取れないんですよ。とりあえずレースの感想を伝えたいと思ったんですが」
サッパちゃんですら連絡取れないとは…。
「メディアの取材にも応じていないが、スチュワートが囲っているのかな」
エースの問いをサパライアン副社長が否定した。
「いや、スチュワートもレイターの行方を探しているらしい。内輪の祝勝会にも顔を出さなかったそうだ」
レイターらしい。勝手に雲隠れしてる。あの人はフェニックス号が自宅で銀河中に隠れ家を持っている。
「ということだから、ティリー、至急レイターに連絡を取って欲しい。この件で打ち合わせがしたいと」
「え?」
エースが突然わたしに話を振った。
「聞こえなかったのかい?」
サッパちゃん、いやサパライアン副社長でも連絡つかなかったレイターに連絡を取れ、と随分簡単に言う。
「す、すぐ、連絡を取ってみます」
自信は無いけれどそう答えるしかない。
副社長の二人が心配そうな顔でわたしを見た。 (8)へ続く
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