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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第七話 愛しき妹のために・・・(中巻)
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愛しき妹のために・・・ (上)
「困ったことがあれば私に言いなさい。全力で対処する」
「わかりました」
フローラが小さくうなずいた。私にできることはここまでだ。
私が反対すると思っていたのだろう。
フローラは安堵の表情を見せた。
このところ急にきれいになった。兄の私ですら思わず見とれてしまうほどに。
この愛しい妹のために、私にできることは限られている。
フローラの意思を尊重することは、その数少ない一つだ。
「お、お坊ちゃまぁ・・・」
「バブさん、ご飯にしましょう。折角のご馳走が冷めてしまいます」
「は、はい」
納得できない顔でバブさんはシチューをよそった。
私も納得しているわけではない。自分を律する訓練を積んできた成果だ。こんなところで役立つとは。
私にはわかっている。
父上は、娘が連れてきた彼氏、つまり、レイターを殴ったりはしない。それどころか、二人の交際を喜んで認めるであろう。
そして、私は悟った。
自分ではどうにもできない事象に対する感情。これが敗北感というものか。
* *
お兄さまが不快感を示しながらも、交際に反対をなさらなかったことが、わたしはうれしかった。
お兄さまに止められたら、わたしはどうしていただろうか。
レイターへの想いは止められない。かと言って、お兄さまの言いつけに背くこともできない。
この広い宇宙で、高知能民族インタレスの記憶を継いでいるのは、お兄さまとわたしの二人だけ。お兄さまを悲しませることはできない。
お兄さまも、おそらく同じことを考えられたに違いない。
わたしを悲しませたくないと、自らの考えを押し殺されたのだ。
お兄さまのために、わたしにできることは少ない。
でも、この御恩はお返ししたい。
バブさんが作ってくれた、お野菜がたっぷりのホワイトシチューを口にする。
「おいしい」
思わずわたしは口にした。
わたしは好き嫌いが多い。
お野菜も匂いの強いものは苦手だ。けれど、きょうは、どのお野菜の味も甘く感じられる。
「ほんと、うめぇな」
レイターがわたしを見て笑った。
シチューを食べながら、さっきレイターと部屋で交わした会話を思い出した。
*
「つきあうと、何が変わるのかしら?」
交際についてのイメージを、わたしは掴みかねていた。
文学によればデートをするなどして、二人だけの時間を過ごすようだ。
けれど、体の弱いわたしは、簡単には外へ出かけられない。
一方で、レイターが学校から帰った後は、花を育て、おしゃべりをしながら今でもずっと一緒に過ごしている。行動様式に変化が訪れる気がしない。
レイターは笑いながら言った。
「簡単さ。隠れてキスしないですむ」
わたしは耳まで顔が赤くなった。
『つきあうと何が変わるのか?』その答えの一つを、今わたしは身体で感じていた。
料理がおいしく感じられる。
レイターがわたしのことをどう思っているだろうか、という不安や迷いが排除され、精神が安定化したからだ。 最終回へ続く
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