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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(33)

レイターはデリポリスにある警察病院に緊急入院した。
銀河フェニックス物語 総目次 
<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版①   

 レイターの幼なじみでグレゴリーファミリー構成員のジムは、「おいら、警察サツの空気は嫌いなんで」と、あっという間にデリポリスから姿を消した。

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「若をお守りできたからよかったッス」と言いながら。

 静かに夜が明けた。
 重要参考人の監視といってもレイターは眠っているので、僕はただ病室内で椅子に座っているだけだ。とはいえ疲れた。まもなく交代が来る。

 ティリーさんも寝ずの看護に疲れたのだろう。レイターのベッドに顔をつけて仮眠をとっていた。

 レイターの金髪に陽の光が反射する。その寝顔は少年のようにあどけなかった。長いまつ毛がかすかに動く。
 彼がゆっくりと眼を開けた。

 意識が戻ったのか。よかった。

 そのままレイターはうつぶせに寝ているティリーさんの頭に軽く手を置いた。
「ティリーさん」
 レイターの声を聞いて彼女は飛び起きた。

 心配そうにレイターの顔をのぞき込む。
「レイター、目が覚めたのね。心配したのよ。具合はどう?」
「長い二日酔いだったぜ。ようやく酒が抜けた」
「よかった」
 体から毒素が排出されたようだ。

「ティリーさん、あんた、髪の毛乱れてるぞ」
「え?」
 レイターは身体を起こすと、ティリーさんの髪の毛を優しくなでた。

髪に触れるワンピ大

「レイター、目が見えるの?」
 ティリーさんの声が弾んでいる。

「何だか久しぶりだな、ティリーさんの顔見るの。俺の彼女なんだから、ちゃんと髪ぐらいとかせよ」
 レイターがにやりと笑った。よかった。失明は免れたということだ。

「誰のせいだと思ってるの!」
 ティリーさんがうれしそうに怒った声で応じる。
「俺のせい」
 そう言うとレイターはティリーさんを抱きしめた。

 僕はお邪魔なようだ。席をはずそうと入口のドアへ向かった。
 その時、
「桃虎さんって誰?」
 ティリーさんがレイターにたずねた。

n350桃虎

 僕はギクっとして足を止めた。
「あん? マフィアの首領ドンだぜ」
 彼はあわてることなく平然とティリーさんに対応した。本当に修羅場に強い。

「随分親しいそうね」
「ジムから聞いたのか?」
「誰からでもいいでしょ」

「マーシー」
 レイターが僕を呼び止めた。
「や、やあ、おはよう」
 返事をする僕の声が震えている。
「やっぱ、警察は信用なんねぇな」

 ティリーさんが声を荒げた。
「レイター! 違うでしょ。マーシーさんが報告するのは仕事なんだから。話をすり替えないでちゃんと説明して頂戴!」

n11ティリー@2白襟長袖口開く

「う、俺、また具合悪くなってきた……」
 レイターは隠れるようにふとんを頭からかぶってベッドに横になった。

 マフィアの大群に遭遇してもものとしない彼が、ティリーさんにだけは頭があがらないでいる。これは報告書に付記すべき事項だろうか。

 デリポリスにはレイターから任意で事情聴取をしたがっている警察官がたくさんいた。ジョーカー事件を追っている僕たち刑事課はもちろんのこと、マフィア対策課や、暴走族取締課……彼は体調が悪い、と言ってすべて拒否した。

 そのくせ、彼は監視の僕の目を盗んでデリポリス内を歩き回っていた。
「最新鋭船のホワイトP6型さあ、あれじゃギャラクシー連合会の特攻は摘発できねぇぜ。俺がいじってやろか、特別料金で」

 ジョーカー事件は思わぬ展開を見せた。

 火星にある銀河警察本庁の捜査本部から緊急の連絡が入った。パリス警部と一緒に通信機の前に立つ。いい知らせなのか悪い知らせなのか、本部長の表情から読み取れない。
「昨日、連邦軍の特命諜報部が毒物テロリストの身柄を確保した。この被疑者の男が、ジョーカー事件について店内で薬物を撒いたのは自分だと自白した、と軍から連絡があった。明日、身柄を火星七番署に移送し、当捜査本部が殺人罪で逮捕する。軍の取り調べに対し、被疑者はグレゴリーファミリーの賭博場で負けたことに対する恨みが動機だと供述している。パリス警部とガーランド警部補は重要参考人レイター・フェニックスの行動確認を解除し、所轄へ戻れ。以上」

 僕とパリス警部は目を見合わせた。不可解な結末。

マーシーとパリス

「どういうことでしょうか?」
「軍の特命諜報部は将軍家の直轄だ。被後見人であるレイターの嫌疑を晴らすために捜査をしたのかも知れん。いずれにせよ、これでレイターはシロ。マーシー、お前の仕事も終わりだ」     (34)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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