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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第六話 父の出張(4)
父親はティリーにロッキーと付き合ってはどうかと提案した。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① (1)(2)(3)
<恋愛編>のマガジン
*
ホテルへ帰るパパとは店の前で別れた。まだ、三人で飲みなおすことのできる時間だ。わたしはレイターに謝った。
「ごめんね。パパが変なことばかり言って」
「ま、俺は昔から一般人の受けが悪りぃんだ」
と肩をすくめた。
「そうだよな。親父さん、俺ん家の親の反応と似てたな」
「ったく、あんたが俺のこと、変な紹介するからだろが」
レイターがロッキーさんの頭をパシっとはたいた。
いつもなら「やめなさい」とレイターを止めるところだけれど、きょうはロッキーさんの失言に振り回されて疲れていた。
「痛ってぇなあ。間違ったこと一つも言ってないぞ。そうだ、お前、業務用の顔をすればいいじゃん」
「あん?」
「偉いさんを警護する時は顔が変わるじゃん」
確かにレイターは要人警護の時は背筋の伸びた『よそいきレイター』になっていて普段とはまるで違う。身のこなしから何から、とにかく別人のようにかっこいい。
あのレイターなら、堅物なパパが許してくれそうな気がする。
「親父さんの前で一生仕事の顔してろ、っつうのかあんたは」
再度ロッキーさんの頭をはたいた。
ドキン。今、レイターは「一生」って言った。深い意味はなく使ったと思うけれど、パパが使った「結婚」という二文字を思い出した。
「いいこと思いついた!」
ロッキーさんが手を打った。
「おまえさあ、ティリーさんのお袋さんから攻略すればいいんじゃないか?」
「はあ?」
「だって、おまえ、女には業務用じゃなくても愛想がいいじゃん」
「それってどうなのかしら?」
本当のことだけにイラっとする。
「ティリーさんの親父さんが、レイターのことをとんでもない奴だ、ってお袋さんを洗脳する前に手を打った方がいいよ。ティリーさん、とりあえず、アンタレスの実家に通信を入れてみたらどうだい?」
「あんた、次から次へとよく思いつくな。で、ロッキーのお袋さんと同じように嫌われて終わりかよ」
「そうでもないぞ」
「あん?」
「お袋さあ、この前のS1、おまえのこと応援してたんだぜ」
「ど、どうしたんだよ。悪いもんでも食ったのか?」
レイターがあわてている。
「だから、大丈夫だ。ティリーさんのお袋さんと話してみなよ」
ロッキーさんが太鼓判を押す根拠はよくわからないけれど、確かにママに連絡をいれておいた方がいい気はする。彼氏ができたということも報告していないし、エース社長とつきあっていると思われていても困る。
「そうね、ママに連絡しよっかな」
* *
ロッキーの奴をティリーさんの親父さんと同席させるんじゃなかった。俺の判断ミスだ。レイターは後悔していた。
こいつは間が悪くて、一言多い。そのくせ、変なところで妙に鋭い。昔から、想定外の破壊力で俺の防御をことごとく粉砕しやがる。
ティリーさんは、何だかんだ言って親父さんと会えたのを喜んでた。
俺はその場を壊さないように、業務用の顔だって、愛想笑いだってできた。いつものようにおしゃべりと話術で、人の好い青年を演じることもできたんだ。彼氏としては、親父さんに気に入られるよう努力するのが正解だったんだろうな。
なのに、身体が動かなかった。いや、動けなかった。
親父さんが真剣だったからだ。娘が心配で心配で仕方なくて、ティリーさんの幸せを願う真剣さが十Gの重力並みに襲い掛かってきた。
調子のいい俺の言葉に、この人は騙されない。
親父さんの瞳には、ロッキーなら娘を幸せにできると映っていた。そうだよな、どんくさいところはあるが、俺と違ってロッキーは人殺しじゃねぇし、命を狙われることもねぇし、何よりいい奴だ。親父さんの目に狂いはねぇ。
そのロッキーがまた訳のわかんねぇことを言い出した。ティリーさんの母親に連絡しろだと。
「そうね、ママに連絡しよっかな」
つきあってらんねぇ。
「勝手にしろ。俺は帰る」
「お前、帰っちゃうの? じゃあ、代わりに俺がティリーさんのお袋さんと話しとくよ」
俺は反射的に応えた。
「やめろ」
「なんで? 恋愛している当人より、第三者が褒めたほうが効果があるんだぜ」
普通はそうだ。だが、きょう親父さんとうまくいかなかった元凶をあんたわかってんのか。
「もういい。俺が直接話すから、ロッキーは今日は帰れ」
これ以上かき乱されたくねぇ。 (5)へ続く
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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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