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銀河フェニックス物語<少年編>第十二話 図書館で至福の時間を(1)
戦艦アレクサンドリア号、通称アレックの艦。
銀河連邦軍のどの艦隊にも所属しないこの艦は、要請があれば前線のどこへでも出かけていく。いわゆる遊軍。お呼びがかからない時には、ゆるゆると領空内をパトロールしていた。
「俺も行くぅ!」
とレイターが大きな声を出した。
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「僕が行くのは図書館だ」
「だから、俺も図書館へ行きてぇんだよ」
アレック艦長も不審な目でレイターを見た。
「図書館が何をするところかお前、知ってるのか? 本を読むところだぞ」
「馬鹿にすんなよ。知ってるさ」
こいつ、読書が嫌いなくせに。
「アーサーには資料を探す任務で行ってもらうだけで、他に寄り道もしないぞ」
「わかってるよ、俺はと・しょ・か・んへ行きてぇんだ」
レイターが強調する。艦長は仕方ない、という顔で僕を見た。
「まあいい、図書館の利用法を知っておいて損はないからな」
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嫌な気分だ。レイターに図書館のマナーを教えろということか。こいつは「本を読むと目が悪くなる」と言って、マンガと銀河航法概論以外の書籍を手にしているところを見たことがない。これから行くところにマンガの所蔵はない。
*
図書館へ出かけるのはアレクサンドリア号に乗艦してから初めてだ。軍服から私服に着替える。
「随分、ご機嫌じゃん」
鼻歌を歌っている訳でもないのにレイターは鋭い。
「別に」
大半の蔵書はオンラインで請求できるが、中には許可されない資料がある。複製禁止の書面を閲覧して記憶し再現するのが今回の僕の任務だ。浮かれている場合ではない。
図書館へ入るところでレイターが聞いた。
「なあ、俺、書庫から借りてぇんだけど」
書庫? こいつ、目的があってここへ来たのか。レイターが図書館の使い方を把握していることに驚く。
開架の本とは違い、身分証明が無くては借りられないが、レイターは今、死人扱いになっている。入口のカウンターで僕の利用カードを使い紹介者カードを作った。本を破損したり紛失した場合には連帯責任を負わされるが、仕方ない。
「本は大切に扱うんだぞ。盗んだりするなよ。おかしなことになったらお前をここへ置いていくからな」
「わあってるよ」
レイターはカードを僕からひったくると、くるりと背を向け足早に動きだした。走ってはだめだ、と注意しようとして気が付く。レイターは絶妙の速度で館内を歩き抜けていく。あいつ、図書館をよく知っている。
それにしても何をする気だ。あわてて僕は追いかけた。
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着いた先はモニタールームだった。肩から力が抜ける。書籍ではなく視聴覚資料か。本を嫌いなあいつが図書館へ来たがった理由が腑に落ちた。
自動カウンターではなく司書がいるカウンターへ直行した。自動カウンターの使い方を知らないのだろうか? それとも、司書が若い女性だからか?
「S1レースの百六十八から百七十二まで貸してください」
と利用カードを手渡す。百六十八から百七十二。ちょうどレイターが裏社会の帝王のダグの手から逃げ回りだした時期からだ。
「はい、どうぞ」
司書が利用カードに権限を付与してレイターに返した。
「ありがとう」
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にっこりと天使のような笑顔を振りまく。
「あのね、教えてほしいんだ。お姉さんみたいにきれいに見える機械はどれかなぁ?」
「ま、おませさんね。こっちよ」
気をよくした司書が映像ルームへと招き入れブースへと案内した。
あいつ、図書館のことを熟知している。再生プレイヤーは納入年次によって性能にばらつきがある。初めて来る図書館では司書に聞くのが一番だ。
三時間のレースを五本借りていた。帰りまでに見終わらないんじゃないか。まあいい。これで静かにしていることはわかった。僕は僕の仕事をしよう。
大量の書物に囲まれる静謐な空間が僕を呼んでいる。独特の甘い香りを思いっきり吸い込んだ。 (2)へ続く
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