銀河フェニックス物語　＜ハイスクール編＞火事の日の約束（最終回）

フローラがロッキーに伝えた。「レイターは顔が表に出ると殺される」と。
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「レイターの奴、誰に殺されるってんだよ。面白くない冗談だなぁ」

　フローラが真面目な顔でオレを見た。
「いつかレイターが、あなたに話すことがあると思う」
　殺されるってのは、冗談じゃないのか？
　あいつの過去に何があったんだろう。レイターは秘密主義だ。落ち着かない気分がオレを襲った。

　フローラの部屋とレイターの部屋はドアでつながっている。フローラの看病のため、いつもは開けっ放しだがきょうは閉まっていた。
　オレはドアをそっと開けた。レイターの部屋へフローラと一緒に入る。

　相変わらず、散らかった汚い部屋だ。
　先週、遊んだトランプがそのまま床に放置されている。

　レイターはベッドの上で静かな寝息をたてて眠っていた。

　左腕に包帯がぐるぐると巻かれている。フローラには悪いが、なんだか不格好だ。

「薬が効いてるみたい」
　小さな声でフローラが言った。

　普段のこいつからは想像できないような、天使みたいな寝顔だ。まつげが長い。

　元々チビで童顔、っていうかガキのまんまの顔をしてるが、寝てる姿はいつもに増して幼い気がする。

　しかし、この幼い顔に似合わず、すごい奴だ。あの火と煙の中へ飛び込んでいって、ちゃんと救助してくる。皇宮警備にいたって聞いたけど、どんな訓練を受けてるんだか。

「こいつと君の兄さんって戦地にいたんだろ。すごいよな」

　フローラは少し考えこんでから口にした。

「レイターは心の形が歪んでいる」
　歪む、っていう表現の意味がよくわからない。レイターは変なところはあるけどひねくれちゃいない。
「レイターはいい奴だし、精神的にも強いじゃん」
　学校で裏番張ってる様子を見てたら、こいつの神経のずぶとさは並みじゃないぞ。

「ロッキーは、もし人を殺したら平気でいられると思う？」
　フローラの話は一気に人を殺すってところへ飛んだ。
「平気ってことはないだろうな。悪魔じゃあるまいし、罪悪感って奴はあるだろうから」
「レイターとお兄さまは何人も人を殺しているの」
　オレは思わず息をのんだ。衝撃的なワードだった。

　レイターもアーサーも戦艦に乗って戦争の最前線にいた。そういう経験をしていてもおかしくないってことだ。

「悪魔じゃないから心が傷ついて歪んでいる。でも、平気な顔して暮らすの。将軍家って」

　フローラが寂しそうに笑った。自虐的だ。

「こんな話を聞いたらロッキーはレイターのこと、怖い？」

　裏番をめぐってキーレンと喧嘩したレイターを思い出した。
　こいつキーレンの首筋にナイフをあてて「苦しんで死ぬのと、苦しまないで死ぬのとどっちがいい？」って聞いた。

　あの時、空気が一瞬で凍った。レイター自身が尖ったナイフみたいだった。

「怖くない、って言ったらウソになるかも知れない」
　と言いながらレイターのあどけない寝顔を見る。心が落ち着いてきた。

「けど、こいつって、子どもを助けるために、火の中へ入っていく真っ当な奴だぜ。こんなケガまでしてさ。オレ、こっちが本当のレイターだと思う。だとしたら全然怖くないな」

「ありがとう、ロッキー。あなたに話せないことをレイターはたくさん抱えている。でも、信じてあげて。わたしと約束して、レイターを支えて助けてあげて欲しいの。ずっと、ずっと…」
　フローラは俺の目を見つめた。あまりに綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。

　オレがレイターを助けるシチュエーションなんて思いつかない。こいつは一人で何でもできちまう。けど、フローラの気迫に押されて俺は答えた。

「あ、ああ。約束するよ。オレで力になれることがあれば何だってするさ」
　それを聞いてフローラは安心したようににっこりと微笑んだ。
「約束、忘れないでね」

　それにしてもレイターを病院へ連れていった方がいいんじゃないだろうか？　少し不器用に巻かれた包帯が不安をかき立てる。
「こいつ、大丈夫かな？」
　フローラは確信を持ってうなづいた。
「明日には平気な顔をして学校へ行くと思うわ。ケガのことバブさんにだけは知られたくないって言ってたから」
　フローラが笑った。オレもつられて笑った。

　明日、こいつはまるで何もなかったかのように「先に帰って、悪りぃ悪りぃ」って笑いながらオレの前に現れるんだろうな。

　そう言う奴だ。こいつは。   　　　　　（おしまい）
＜出会い編＞第四十二話「同級生の言うことには」へ続く

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