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銀河フェニックス物語 <恋愛編>  第六話 父の出張(6)

ティリーの母はレイターを連れて家に帰ってくるように誘った。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① (1)(2)(3)(4)(5
<恋愛編>のマガジン

* *

 故郷のアンタレスへ向かうフェニックス号の居間で、ティリーは大きく伸びをした。
 レイターを家へ連れてくるようにママに言われてから一か月。仕事をやりくりして何とか休みが取れた。二日しかいられないけれど、今回の帰省で両親にレイターを彼氏として認めてもらうのがわたしのミッションだ。
 とにかく、ロッキーさんを反面教師として、レイターのいいところをアピールする。

 レイターはソファーに寝っ転がっていた。乗り気じゃないのが一目でわかる。

「これまでにアンタレスへ行ったことってある?」
「んにゃ、アンタレス星系に行くのは初めてだ」
「レイターでも行ったことのない場所があるのね」
「あそこは武器の規制がうるさくて、入管手続きが面倒なんだよな」
 急に不安に襲われた。この人は『厄病神』だ。

「もしかして、アンタレスに銃を持ち込む気なの?」

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 わたしの祖国では銃を所持するだけで罰せられる。
「違法なことはしねぇよ。一応届けは出しておいたんだ」
 この人はボディガード協会の3Aだ。申請すれば銃の所持に許可がでる。
「わたしの実家へ行くのに、銃なんていらないわよ」
「そうなんだけどさ」
 天井を見ながらレイターがゆっくり身体を起こした。煮え切らない反応に、考えたくないことが思い当たった。
「まさか、軍の仕事が入ったの?」
「って言うほど、大した話じゃねぇよ。子供の使いみてぇなもんだ。だから考えてる」
「……」
 特命諜報部が故郷で動いているということだ。緊張で身体が固まる。
「あんた、眉間にしわ寄せてると、顔が親父さんそっくりだぜ」
 レイターがわたしの額をつっついた。
「止めてよ。誰のせいよ」
「わかったわかった、船に置いてく。銃を持ってるところを親父さんに見つかったりしたら銃殺もんだからな」 
「言っておくけど、アンタレスに銃殺はないから」
 軽口で答えながらほっとした。

 子どもの頃から見慣れた赤い主星のアンタレスAと緑の伴星アンタレスBが近づいてきた。

アンタレス二重星

 銀河中心部のソラ星系の太陽と比べると、巨大なアンタレスAは赤く穏やかな光を放っている。
 わたしの故郷はアンタレスAの周りを十六年かけて公転する惑星アンタレスだ。わたしたちの祖先はこの星で誕生した。

 アンタレス人は二重星の二つの太陽を神様としてあがめている。精神的な支柱であるとともに、恒星から届く恵みの光と風をエネルギーに変換して暮らしていて、物理的になくてはならない存在なのだ。

 老成した星は生活も安定している。争いもないから軍隊もない。
 アリオロン同盟とソラ系銀河連邦の戦争が激化した三十年前。自衛する能力がないアンタレスは銀河連邦に加盟した。
 連邦軍の駐留が決まり、当時学生だった父は、反対運動に身を投じたという。


 久しぶりに故郷の土を踏む。ソラ系とは空気が違う。よく言えば落ち着いている。悪く言えば活気がない。
 住宅街にある小さな一軒家がわが家だ。星全体で格差が少なく、同級生たちは大体似たような家に住んでいる。

「ただいまぁ」
「お帰りなさい」
 ママが玄関に顔を出す。

 わたしの後ろに立っていたレイターが頭を下げた。
「初めまして、レイター・フェニックスです」

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 声がおちゃらけていない。
「あら、あなた。本物の方がかっこいいわね」
 ママがにっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます」
 いつものレイターとも『よそいきレイター』とも違う。

「ティリー、パパは出掛けてるわ。夕飯には戻ってくると思うけれど」
 レイターと顔を合わせたくなくて外出したに違いない。早いところパパを攻略してのんびり過ごしたかったのに。    (7)へ続く

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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