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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(2)

ゲームセンターで毒物が撒かれ死者が出る事件が発生した。犯人に疑われたレイターの元へ警察官が訪れた。
銀河フェニックス物語 総目次 
<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版 


 取調室でパリス警部と僕は重要参考人であるレイター・フェニックスと向き合った。
 椅子にだらりと腰掛けたレイターへの事情聴取は僕の指導員であるパリス警部がメインで行った。

 いつもは僕が取り調べをするのを警部は横で見ているが今回は事案が大きいからか、経験豊富な警部が自らやると僕に言った。

「お前が毒ガスを撒いたのか?」

パリス警部口を開く

「なんで俺が撒くんだよ」
「毒を吸った客はほとんどが即死だった。どうしてお前だけ助かったんだ。事前に解毒剤を飲んでいたんじゃないのか」

「俺さあ、皇宮警備の予備官やってたんだよ」
 皇宮警備は連邦軍のエリート集団だ。王族の暗殺を防ぐため毒物が効かないように訓練を積む。
「薬物耐性か。それを事件に利用したんだな。店内の防犯カメラ映像は電磁ウイルスで消去されていた。皇宮警備官ならできるプロの仕事だ。ダグへの恨みか」
 
 警部はレイターを犯人と決めてかかっているようだった。良識派の警部にしては珍しい。こんなことは初めてだ。

 僕は気になってレイター・フェニックスのプロフィールを検索したが前科も何もなかった。
 職業は自称『銀河一の操縦士』S1にも出場した元レーサーだ。

外向き真面目

 宇宙船レースに興味のない僕でも知っている。
『無敗の貴公子』の引退レースで、あのエース・ギリアムに、あと一歩で土をつけるところまで迫ったレーサー、それが彼だった。

 副業でボディーガードをやっている。
 ボディーガード協会のランク3Aと腕前はトップクラス。彼が言う通り皇宮警備の予備官も務めていた。
 家族はいないが後見人は連邦軍のジャック・トライムス将軍で身元もしっかりしている。

将軍家正面

 毒ガスを撒くという残忍な事件と結びつかない。

 純正地球人である彼の出身は、過去にパリス警部が勤めていた地球の警察署の管内だった。警部が彼にこだわるのは過去に何かあったに違いない。

「だから、さっきから言ってるように、俺はジョーカーで三十分位ゲームをやってたんだ。そうしたらめまいがして、気分が悪くなったから外へ出た。それだけさ」
 めんどくさそうに彼は答えた。

「この小さなポーチの中に時限式の毒ガス噴霧器が入っていたんだ。店のこのゲーム機の上に置かれていた。覚えているか?」
 警部が現場の写真を見せながらレイターにたずねる。
「俺のもんじゃねぇ。他人のカバンのことなんて知るかよ」
「ちょうどお前の座っていた位置から見える場所にある。偶然とは思えん。 昔は置き引きしようと他人の鞄を狙っていただろうが」

「証拠があるなら逮捕してくださいって、あんたとモーリスに百万回は言ったぜ。『疑わしきは罰せず』だろ」
「そんなことばかりダグから覚えおって」
「ダグだけじゃねぇぜ。あんたもいろいろと教えてくれた。『加害者に理由あり、被害者に理由なし』ってな。俺は被害者だから聞くだけ時間の無駄さ」

下から見上げる 青年ネクタイなし後ろ目にやり

 二人の会話から想像すると、彼は警部が面倒を見ていた不良少年だったようだ。彼がグレゴリーファミリーと関係する不良グループに属していたとなれば、今回の事件とつながる。

 それにしても、違和感がある。身元調査が厳しい皇宮警備官と不良は結びつかない。

 のらりくらりと話すレイターは聴取に慣れていた。何も聞き出せないまま夜になった。任意ではこれ以上話を聴くことができない。彼を船に帰すことになった。

「事件の参考人であるお前に警護をつける」
「へぇ、ボディーガードに警護をつけるほど警察に金があるとは知らなかったぜ。監視の間違いじゃねぇの」
「よくわかってるじゃないか。マーシー、こいつから目を離すな」
「はい」

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 僕は、彼の警護という名の監視をすることになった。   (3)へ続く

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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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