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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(32)
フェニックス号を撃ち落そうとガーラがレーザー弾を一斉砲火した。
・銀河フェニックス物語 総目次
・<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版① ② ③ ④
その時、
デリポリスのバリアスクリーンの一部が開放された。
飛び出してきた機動警備隊がガーラに長距離ライトレーザーで攻撃を仕掛ける。
「フェニックス号の入構を許可する。マーシー・ガーラント警部補、いい報告書をありがとう。あとは、こちらで引き取る」
通信機から”先輩”の甲高い声がした。
黄色く輝く誘導路が目の前に浮かび上がる。
「ジム、何が起きてるかわかるか?」
「大丈夫ッス」
フェニックス号は矢印に沿ってデリポリスのバリアスクリーン内へ入っていく。
仕事の速い”先輩”から、送付した報告書に対する返信が届いていた。
返信の内容をジムとレイターに伝える。
「デリポリスの中央駐機場にフェニックス号を止めてくれ」
要塞と呼ばれるデリポリスに入ってしまえばガーラは何もできない。
マフィアのピンクタイガーが千五百隻の連隊を持って襲ってきても、その程度では落とせない。もうレイターの身柄は安全だ。
「あんた、何をした?」
レイターが不思議そうな顔で僕を見た。
「重要参考人を警護するのが僕の仕事さ」
「今の甲高い声は、ダリアーナ首席監察官かよ。あんた、キャリアで振興開拓星の出身だったな。ダリアーナと同郷なのか」
その読みの速さと確かさに僕は驚いた。
「ああ。ダリアーナ先輩と僕は年は離れているけれど、同じハイスクールの出身だ。どうしてわかったんだ?」
「警察官僚の幹部人事なんて官報に出てるじゃねぇかよ」
たしかに公表された情報だが、それを彼はどこまで覚えているのか?
*
僕は、フェニックス号に乗ってからずっと重要参考人であるレイターのことを報告書にまとめていた。
彼についてはわからないことだらけだが、一つだけ結論が出ていた。
『レイター・フェニックスをダグ・グレゴリーに渡してはならない』
レイターと裏社会の帝王が手を結んだら、大変なことになる。警察をも脅かしかねない。
報告書の扱いをどうすべきか、考えていた。
この情報を通常ルートで上にあげても、どこかで握りつぶされるだろう。
ダグ・グレゴリーはレイターを手に入れがっていて、警察内にはその意向を組むべく動く裏社会と繋がった幹部がどこかにいる。
”先輩”であるダリアーナ首席監察官はどの派閥にも属していない。融通の利かない偏屈だ、と組織内では陰口をたたかれていた。
ギャングに蹂躙されていた僕たちの故郷を救ったのは警察組織だ。
その誇りを先輩と僕は共有している。
学生時代、ハイスクールのOB会に顔を見せた二十歳年上の先輩に、僕は進路を相談していた。
「マーシー、現実と理想は違うがやってみる価値は十分にある」
甲高い先輩の声は僕の進む道を後押しした。
そして、先輩は今、首席監察官の地位にある。内部告発への対応において組織内で強大な権限を持っていた。
レイターは見えない瞳で僕に向かってウインクした。
「キャリア人脈か。あんたはパリスの親父より、よっぽど組織の動かし方って奴を知ってやがるな」
*
フェニックス号は中央駐機場の指定された場所に着陸した。
関係車両がたくさん集まってくる。
フェニックス号を追ってきた最新鋭のホワイトP6型が隣に停まる。
マフィアに追われていたとはいえ、交通部への説明が一番めんどくさそうだ。
ようやく一息ついた。その時、
「お袋さん、今、誰かを勝手に船に入れたな?」
レイターが怪訝そうな声で聞いた。
警察関係者を船内に通したのだろうか?
「レイター!」
聞きなれた女性の声がした。
「なっ! ティリー、さん」
レイターがびっくりして席から立ち上がった。
僕も驚いた。どうしてここにティリーさんがいるのだろう。
目の見えないレイターはティリーさんの足音を必死に聞き取っている。
一目で動揺しているのがわかる。千五百機の敵の船に囲まれても動じなかった彼が……
「会いたかった」
ティリーさんがレイターの元へ駆け寄り抱きついた。
「航路を通って先回りしてたの」
レイターが真剣な表情で怒鳴った。
「バカ野郎!」
そのまま視線をドアへ移した。
「パリス! あんた、そこにいるんだろっ。何でティリーさんを連れてきた! デリポリスだって安全とは言い切れねぇ。ティリーさんを巻き込むなっつっただろが!」
ティリーさんの後ろから入ってきた警部が静かに答えた。
「レイター、もう終わったんだ。さっき三日間の期限が切れた」
「何っ……」
レイターは呆然とした表情をした。そうか、期限が来たのだ。彼は時計が見えていない。
「俺としたことが……ゲームオーバーだと」
「そっか、鬼ごっこに勝ったんスね! さすが、レイターっス」
ジムがうれしそうに叫んだ。
「終わったのか……」
そうつぶやくとレイターの全身から力が抜けた。僕はあわてて駆け寄り、彼の崩れ落ちる身体を支える。熱い。ひどい熱だ。
「そうよ、レイター。もう終わったのよ」
ティリーさんが泣いていた。
*
レイターは治療のためデリポリス内の警察病院に緊急入院した。
致死量を超える毒を吸い込み、目が見えない状態で、あれだけの敵を相手に戦うとは。ダグ・グレゴリーが跡継ぎに欲しいはずだ。
ダグは彼の才覚を子供の頃すでに見抜いていたのだ。
彼は血液洗浄装置とつながれた状態で死んだように眠り続けた。命に別状はないが、視力が回復するかどうかはわからないという診断だった。
ティリーさんがずっとそばについて、汗を拭いたり冷却シートを取り替えたり介抱している。
彼の行動を監視するという僕の任務はまだ続いている。
彼がジョーカー事件の重要参考人であることは今も変わっていない。 (33)へ続く
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