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銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第六話 父の出張(25最終回)
レイターは月の御屋敷へアンタレスみやげの太陽飴を届けに行った。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」① ② (12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(19)(20)(21)(22)(23)(24)
<恋愛編>のマガジン
パパとレイターの夕食の会話を思い出した。戦争の影響が銀河中に広がっているという話。レイターは知っていたのだ。アンタレスの技術が大量兵器に転用されかかっていることを。
「ったく、飴買って来るだけの子供の使いだ、っつうから引き受けたのに。ティリーさんの家族まで危険な目に遭っちまったじゃねぇか。一発殴らせろ!」
レイターが立ち上がろうとした、その時、
「そう怒るな」
アーサーさんがレイターの足を軽く蹴った。
「い、痛ってぇ~!!」
あわててレイターが足を押さえた。骨にひびが入っているほうの足だ。アーサーさんは穏やかな顔をしながら容赦がない。
「ティリーさんすみませんでした。ご家族とともに危険な目に遭わせてしまって。銃の使えないアンタレスですから、そこまで危ない任務にならないはずだったのですが……」
アーサーさんが頭を下げた。
わたしたち家族が危険な目に遭った。と言うことは、あの暴走タクシーの件とレイターの任務に関係があったということだ。
「銃がありゃ、こんなケガしなかったぞ。暴走タクシーの動力炉ぶち抜いて止められた」
「どういうことなの?」
わたしの問いにアーサーさんが答えた。
「データチップが連邦に取り返されたことを知って、アリオロン側はそのチップごとレイターをタクシーで轢き殺そうとしたんです」
血の気が引いていく。
「銃が使えねぇから敵さんもいろいろと考えてんだよ。ったく暴走車ってのは一般人に被害が及ぶから、たちが悪いぜ。あのエアタクシーは俺と接触しねぇと止まんねぇと思ったから蹴り上げたんだ」
「そ、そうだったの」
それで、足を怪我したんだ。今更だけれど、じっとりと嫌な汗をかく。単なる事故じゃ無かった。一つ間違えばわたしたち家族も巻き込まれ死んでいてもおかしくない状況だったと。
「アーサー、よく聞けよ。暴走タクシーん中は大変だったんだからな。運転制御がきかねぇ中で、中央コントロールを混乱させてる沿革操作の逆探知をかけて、データをぶっこんだんだ」
上空で不安定に揺れるエアタクシーの中でそんなことをしていたんだ。
「あれは、銀河一の操縦士じゃなけりゃ絶対できねぇぜ」
恩着せがましく報告する。
「お前の逆探知のおかげで潜伏中のアリオロンの工作員を捕まえられた。これまで尻尾がつかめず難航していたから、感謝する」
「誠意は言葉じゃなくて、現物で示せっつうの。手当には技術料と治療費と慰謝料を上乗せしろよ」
その時わたしは気が付いた。
「アーサーさん、治療費はいりませんからね。この人、タクシー会社に請求してるので二重取りになります」
「ティリーさんっ!」
わたしの愛しい彼氏は頭を抱えた。命の恩人だけれど、それとこれは話が別だ。
*
帰りのフェニックス号の中で、レイターがため息混じりにつぶやいた。
「やっぱ、危険な香りがしたのかも知れねぇな」
珍しく神妙な顔をしている。
「どうしたの? 何だか変よ」
「何でもねぇよ!」
レイターの声が荒れている。絶対に変。
「何でもないことないでしょうが!」
わたしもつられて声が大きくなった。どうしてこう喧嘩腰になっちゃうんだろう。
「じゃあ聞くが、あんた、アンドレと何で別れたんだ?」
「は?」
思いもしない質問にわたしは答えに窮した。どうして別れたと聞かれても、遠距離以外の理由はないのだ。
「別に、嫌いで別れたというわけじゃないんだけれど……」
困った。嫌いどころか友情的な感覚は今もある。
「もういい」
レイターが拗ねている。愉快でうれしい気持ちが湧きあがってきた。
「あなた、妬いてるんだ」
「ば~か。あんな坊ちゃんに誰が妬くか」
わたしの頭を軽く小突いて、短いため息をついた。
「俺と付き合ってると危険な目に遭うかも知れねぇ、なんて言ったら、親父さんは絶対に許さねぇだろうな」
「そうね」
わたしは同意してからちょっとドキっとした。
レイターはパパが何を『絶対に許さない』、と言ったのだろう。付き合ってること、それとも……結婚。
聞いてみたい。けれどその二文字を口にすることはできなかった。
南の方角を見ると、わたしの故郷アンタレスAはいつもと変わらぬ赤い光を放っていた。 (おしまい)
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出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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