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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(8)
前線のフチチで観艦式が開かれている中、アーサーは敵である同盟側の反応が気になっていた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)
<少年編>マガジン
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去年のことだ。田舎のパイロット養成学校へ通っていたコルバは連邦軍からスカウトされた。正確に言うとたまたま学校を訪問していたアレック・リーバ艦長に「俺の艦に乗らないか」と一本釣りされたのだ。
「ぼ、僕でよろしいのでしょうか?」
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「不満か?」
「と、とんでもないです。どうして僕なのかと」
「俺の勘だ」
コルバは子どもの頃から定期航路のパイロットに憧れていた。シングルマザーの母親は「手に職を持つことは大事だよ」と息子の夢を応援し、養成学校への入学資金を懸命に貯めてくれた。
学校の成績は悪くなかった。
だが、就職活動はうまくいかなかった。
「コルバ君は知識も技術もあるよ。でも、パイロットは他人とのコミュニケーションも大切だ」
「は、はい」
教官のアドバイスは言われなくてもわかっていた。
幼い頃の記憶は「うるさい!」と父親に殴られたことで埋め尽くされている。母親は外で働き、家で仕事をしている父親にいつも恐怖を感じていた。自分の何がいけないのかわからない。息を殺して情報ネットワーク上の宇宙船航路をながめ、時が過ぎるのをやり過ごしていた。
学校へ上がるころ両親は別れた。コルバを引き取った母親は働きづめで、息子が眠った後に帰ってきた。親子の会話はほとんどがメッセージツールによる文字を介したものだった。
声を使った会話が怖い。口の中から言葉がうまく出てこない。相手は「うるさい」と思っているかもしれない。文字であれば見直してから発信することができる。けれど、音声は一発勝負で添削できない。
クラスメートとも文字で話すことが好きだった。それで困ることはほとんどなかった。
そんな僕にとって、面接は苦痛でしかない。
難関と言われる大手の航空会社も書類審査や小論文は通過した。なのにその先へは進めないでいた。
面接官に聞かれている内容はわかっている。文章なら回答できる。でも、その場で声に出そうとすると怖気づいて、相手にうまく伝えることができない。
「ご縁がなかったということで」
学生寮で暮らす僕にその日も不合格通知が届いた。「ご縁」って何だろう。会話やコミュニケーションが苦手な僕は、一生誰ともどことも縁を結ぶことができないかも知れない。
ベットに身体を投げ出したところへ、母からメッセージが届いた。「再婚を考えている」と。
薄々気づいていた。自宅に顔を見せる同僚の男性と会う時、母さんは楽しそうだった。僕が社会人になるまで、彼との生活を先送りして待っていてくれたのだ。母さんには、苦労をかけた。幸せになってもらいたい。
「おめでとう! よかったね」
文字のやりとりでよかった。笑って祝福しているように見えるはずだ。
通信機の輪郭がぼんやりと滲んでいる。僕の帰る場所はなくなってしまった。
人と話すことが怖くて、就職もうまくいかない僕はこの先どうやって生きていけばいいのだろう。仕事だけじゃない、家も探さなくてはいけない。卒業後の自分の姿が想像ができない。誰か、僕に答えを示してくれ。
不安を抱えた僕にとってアレック艦長の提案は魅力的だった。
「俺の艦なら、三食寝床付きだぞ」
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その一言で連邦軍への入隊を決めた。これは「ご縁」だ。
軍に就職が決まったことを伝えると、母さんは珍しくカメラで通信を入れてきた。
「軍隊って危険だろ? 心配だよ。定期航路のパイロットを目指していたのに、どうして民間じゃだめなんだい?」
母さんは知らないのだ。民間の方が僕を拒否したことを。不合格通知の一通一通に僕が打ちのめされていたことを。
「縁があったんだ。大きな海戦は終わったし、母さんも知ってる通り僕は慎重で安全操縦だから危険じゃないさ。大丈夫だよ」
母さんが少し驚いた顔をした。こんなに大きな声で会話をしたのは久しぶりだった。 (9)へ続く
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