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銀河フェニックス物語<少年編>第九話(5)「金曜日はカレーの日」
暗号通信士のヌイが解読に間違いがないことを伝えるとアーサーはほっとした表情を見せた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>「金曜はカレーの日」 (1)(2)(3)(4)
<少年編>マガジン
「ヌイ軍曹、ご苦労だった。あす、この武器庫を強襲する。バルダンたち白兵戦部隊に暴れてもらうとするぞ。さあ、天才軍師、すぐに作戦を立てろ」
アレック艦長は坊ちゃんに命令を下した。相変わらず人使いが荒い。
暗号情報によれば、明晩、武器庫から大量の兵器の移動が計画されている。その前に叩くということだ。
*
天才の坊ちゃんが立てた計画は完璧だった。
敵の隙をついて白兵戦部隊が武器庫に突入。
兵器が運び出される前に作戦を終え、意気揚々とバルダンは部屋へ帰ってきた。
「武器庫の見張りは全員捕虜にして、こっちもあっちも人的被害はゼロだ。武器は全部押収してやったゾ。結構ヤバイ物が隠されてた」
「お疲れ、とにかく無事でよかったよ」
「上手くいったのはヌイが解読してくれた情報のおかげさ」
僕より先に坊ちゃんが解読していたけどね。と心の中でつぶやく。
レイターが部屋に入ってきた。
「バルダン、弁当持ってきたぜ」
そうか、きょうは金曜日だった。
「アレックがほめてたぜ、きょうの作戦はバルダンの戦闘能力が高いから成功したんだって」
「あのぐらい屁でもねーよ」
と言いながら、バルダンは満足げにニヤリと笑った。 どこで艦長の誉め言葉を聞きつけたか知らないが、レイターは人たらしだ。艦内の情報にやたらと詳しい。
艦長の評価通りバルダンは優秀だ。
特殊部隊並みの作戦を難なくやり遂げる。精鋭部隊に入隊する能力もある。
「お前さんはどうしてエリートの特殊部隊に名乗りをあげないんだい?」
弁当をかきこみながらバルダンが答えた。
「特殊部隊への憧れはある。だが、ヌイ、お前が一番わかってるだろ。俺がどうやってハイスクールを卒業したか」
思い出した。
「卒業試験で、教師を脅したんだったね」
バルダンがむっとした顔で反論した。
「脅したんじゃない。お願いしたんだ。卒業できないとマフィアに入ることになるから助けてくれって」
レイターが驚いた声を出した。
「バルダンって、マフィアだったの?」
「違うに決まってるだろ」
とバルダンがレイターの頭をはたいた。
「痛てぇな、暴力はマフィアのやることだぞ」
レイターが口をとがらせて屁理屈を言った。
「バルダンは僕たちの英雄だったのさ」
あれは、ハイスクールの卒業が近づいたころだった。マフィアのクロコダイルが毎日校門で張っていた。格闘技部主将のバルダンを探しているという噂だった。
「仕方ねーだろ。殴っちまったんだから」
うちの生徒がクロコダイルの下っ端に絡まれていた。偶然そこを通りかかったバルダンが助けに入り、そのチンピラをのしてしまったのだ。
レイターが目を輝かせる。
「へぇ、かっこいいなバルダン。クロコダイルはなんせクズだ。構成員が質より量だからな」
「お前さん、妙なことに詳しいね。とにかく、クロコダイルのボスがバルダンを気に入ってマフィアに入るよう迫ったんだ」
早食いのバルダンは弁当を食べ終え、自分から続きを話した。
「そん時にはもう軍の入隊が決まっていたから断ったんだが、卒業試験の結果が悪くてな。卒業が入隊の条件だったから、俺は担任の教師に頼みこんだんだ。とにかく卒業させてくれ、と。教師も教え子をマフィアにするわけにいかんから、追試をしてくれたんだが、これも点が悪かった。だから、俺は校舎の手入れを手伝うことで加点をもらって卒業したんだ」
レイターがほっとした様子で肩をすくめた。
「バルダン、よかったなぁ。今、クロコダイルは壊滅状態だぜ。あんなところにいたら、この間の抗争で死んでたかも知れねぇよ」
レイターの地元がマフィアの抗争で戦地のように街が荒れたという話を思い出した。それで裏社会の情報に詳しいのか。 (6)へ続く
<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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