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銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十二話(1) 同級生が言うことには
月の御屋敷で療養中のレイターに会いに行こうとティリーは思い立った。 <ハイスクール編>「火事の日の約束」から七年後の物語。
・銀河フェニックス物語 総目次
・第<出会い編>第四十一話 「パスワードはお忘れなく」① ②
・<ハイスクール編>「火事の日の約束」
もしかしたら今がチャンスなんじゃないだろうか?
レイターに自白剤が効いている今が、彼の本心を確かめる。
『ティリーさん、愛してる』
あの言葉が空耳じゃなかったかどうか…
とにかくレイターに会って、彼の気持ちを知りたい。
駆り立てられるように、わたしは月の御屋敷へと向かった。
あれは、学生時代、推しの『無敗の貴公子』エース・ギリアムの限定グッズが売り出された日。
無駄に早く目が覚め、意味もなく早く家を出た。あの日と似ている、衝動に突き動かされて、身体が動いていく。
*
プリンを手土産に、月の御屋敷の前に立った。
大豪邸の呼び鈴を前に、少しだけ気後れする。けれど、レイターに会いたいという気持ちが上回る。
ボタンを押すと、侍従頭のバブさんの姿がモニターに映った。
「あら、ティリーさん。レイターのお見舞いに来てくれたのかい」
わたしのことを覚えていてくれた。
第一関門突破だ。
見舞いに来てほしくないと言っていたレイターに断られるかもしれない。と心配したけれど、バブさんはすんなり御屋敷の中へわたしを招き入れてくれた。
「レイターは今、侍医長のテッド先生のところへ行ってるんだけど、もうすぐ戻ってくると思うから、ちょっと待ってておくれ。ちょうどよかったよ。あの子、熱も下がって、薬も抜けたようなんだよ」
薬が抜けた? バブさんの言葉に気が抜けた。
「そうなんですか。よかったですね」
と答えながら上の空になっていた。
自白剤が効いているレイターに会いたかったのだ。何のためにあわててここまで来たのだろう。急に冷静になる。
「変な夢見てうなされてたみたいなんだけど、あのでかい図体で、『だりぃ~だりぃ~』ってソファーでごろごろされると、こっちまでイライラしちゃうからさ。早く出ていって欲しかったんだよね」
「はあ」
適当に相槌を打つ。
レイターが元気になったというのだ。ここは喜ぶべきところだ。
そのとき、背後から声がした。
「バブさん、レイターは?」
「おや、ロッキー、あんたレイターと約束してたのかい?」
「約束ってほどじゃないけど、明日にはいなくなるような口ぶりだったからさ…」
レイターと同じ年ぐらいの男性だった。呼び鈴も鳴らさず、勝手に月の御屋敷へ入ってきている。
その男性が、わたしの顔をじっと見た。
「あなた、ティリーさん?」
「は、はい」
どうしてこの人はわたしの名前を知っているのだろう。
「やっぱりそっか」
「立ち話も何だから、中でお待ち」
バブさんに案内され、わたしたちは立派な居間に通された。男性と向かい合ってソファーに腰かける。
男性は月の御屋敷の近所に住んでいて、昔からこの家に出入りしていると言う。
「ティリー・マイルドです。初めまして」
「ロッキー・スコットです。オレは初めてって感じがしないんですよね。レイターからもう何年もあなたの話を聞かされてるんで」
と男性は頭をかいた。
驚いた。
「レイターがわたしの話をしてるんですか?」
「ええ、ティリーさんは、かわいいけどすぐ拗ねるって」
あまりにストレートな答えに、どう反応していいのか困ってしまう。
「あ、いや。つい、気を悪くしたらすいません」
何だか憎めない人だ。
「失礼ですけど、ロッキーさんは、レイターとはどういうご関係なんでしょうか?」
レイターの周りにいる知り合いにしては、普通すぎる印象。
「ハイスクールの同級生です。友人、ですかね」
ロッキーさんが照れた笑いを見せた。これまでおしゃべりなレイターからロッキーさんの話を聞いたことはない。
「あいつの周りって、王族からマフィアまで、いろんな人が出てくるから、振り回されて大変でしょ」
「はい」
思わずうなずいた。共感すると同時に確信する。この人は間違いなくレイターの友人だ。 (2)へ続く
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