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銀河フェニックス物語Ⅰ【少年編】

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レイターとアーサーが十二歳から十五歳まで乗っていた、戦艦アレキサンドリア号での物語。
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銀河フェニックス物語 総目次

イラスト付き縦スク小説『銀河フェニックス物語』の内容が一目でわかる目次を作ってみました。 <出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」記念すべき第一話。新入社員のティリーが「厄病神」のレイターの船で初めての出張に出かけますが、革命規模の大規模デモに巻き込まれて…… <出会い編>第二話「緑の星の闇の向こうに」第一話の一週間後のお話。同期の代わりに出張へ出かけたティリーは、今度は環境テロに巻き込まれます <出会い編>第三話「レースを観るならココ!と言われて」宇宙船レースを観るのが

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(1)

14歳のレイターとアーサーが、戦艦アレクサンドリア号に乗っていた時の物語です ・銀河フェニックス物語 総目次 ・<出会い編>第四十話「さよならは別れの言葉」  戦艦アレクサンドリア号、通称アレックの艦。銀河連邦軍のどの艦隊にも所属せず遊軍を務めるこの艦は要請があれば前線のどこへでも出かけていく。お呼びがかからない時にはゆるゆると領空内をパトロールしていた。 * 「くっそー」  怒りながら同室のレイターが、部屋に入ってきた。 「また、逃げられたのか」  今日は、戦闘機

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(2)

レイターは”逃げのハミルトン”を捕まえることができなかった。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1) *  ある日、レイターがチラリと私の顔を見ながら寄ってきた。あの顔は何か頼み事をする気だな。 「アーサー、お願いがあるんだ」  やっぱりだ。 「ノア海戦とハロタ決戦の映像データと、航行ログが見てぇんだけど」  ノア海戦はハミルトン少尉が大活躍してエースパイロットとして表彰された五年前の戦いで、一方のハロタ決戦は少尉に敵前逃亡の疑惑がかかった三年

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(3)

アーサーの相談を受けて、アレック艦長はレイターに航行ログを見せることを許可した。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2) 「対戦航行ログについて、お前に閲覧権限を付与することになった」  と私がレイターに伝えた時の顔は傑作だった。 「本当か? 本当か? 俺、見てもいいの?」 「その代わり、ブツブツと声に出すのを止めてくれないか」 「わかった、わかった。ありがとう、ありがとう。アーサー、お前、本当にいい奴だよ。思ってた通りだよ。すごい、いい奴だ

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(4)

レイターは敵のハゲタカ大尉が操縦する戦闘機の映像を初めて見た。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)  連邦軍とアリオロン軍の戦闘機の能力は拮抗している。  腕が物を言う世界だ。  タルバニア海戦で、ハゲタカ大尉はそのスピードと破壊力で連邦軍機を次々と撃ち落としていた。  ハミルトン少尉も蝶のごとく華麗な飛ばしで敵機を撃墜し踏ん張っていたが、連邦側最後の一機になった。  アリオロン側は、まだ十機残っていた。十対一だ。  ハゲタカ大

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(5)

敵であるハゲタカ大尉の航行ログは美しい軌跡を描いていた。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)  レイターはモニターの前でブツブツとつぶやきだした。 「右六十三度旋回しながら、補助噴射。機体傾けたまま、発射…」  自分が作った航行ログを見ながらハゲタカ大尉の操縦をトレースしている。 「つぶやくのを止めてくれと言っただろう」 「あ、悪りぃ」  珍しくこいつが私に謝った。無意識のうちに口にしていたようだ。 「お前、これまでもそ

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(6)

ハミルトンは「死んだらおしまいなんだよ。ゲームじゃないんだ戦闘は」とアーサーに伝えた。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5) *  艦長室に呼ばれた。アレック艦長が喜んでいた。 「アーサー、お前がタルバニア海戦のデータ複製を申請したから、何をしだすかと思ったら、すごいじゃないか。あのアリオロンの敵機航行ログは」 「あれを作ったのはレイターですが」 「知ってるよ。レイターとハミルトンの了解は取った。事後承諾で悪いが、アー

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(7)

ハミルトンは大手航空会社の一流パイロットだった。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)  結婚して間もなく、二人の間には男の子が産まれた。  絵に描いたような幸せな人生。  しかし、私生活はその後、破綻した。  遠距離航路の機長で長期間家に帰って来ないハミルトンとのすれ違いの生活に疲れた、妻の不倫が原因だったと言う。  そして、ハミルトンは密輸に手を染めた。 「自暴自棄になっていたのさ」  航空会社の職員、特にパイ

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(8)

一流パイロットだったハミルトンは、自分の何がいけなかったのかと思い返していた。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7) 「もう少し休めないの?」  と妻が聞いた。今、思えばあれが最初のサインだった。  遠距離航路を希望する機長は少なかった。俺にはすぐ仕事が回ってきた。  仕事は辛い。  だが、報酬はそれに見合ったものだった。 「他の奴ができないなら、俺がやるしかないだろ」  俺は船の操縦が好きだ。やりがいもあ

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(9)

会社を首になり、有罪判決が出たハミルトンの周りには誰もいなくなった。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)  そんな俺のもとへ「ニュースを見た」と訪ねてきたのが、アレック・リーバだった。  昔から、少し風変わりな奴だ。  俺が航空大学、あいつが士官大学の学生だった時、操縦セミナーで一緒になった。  船の操縦はそこそこだが、何より勘が鋭かった。 「お前には戦闘機乗りの才能がある」  とアレックは言った。

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(10)

ハミルトンは息子のように感じてしまうレイターから距離を置くようにしてきた。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)  だが、今日の言葉は俺には強烈すぎた。 「俺はあんたを尊敬してるんだ」  レイターの子どものような高い声が身体中に染み渡る。俺がずっと欲していた言葉だった。 「お前が俺の息子だったら…」  見せないように封じ込めてきた思いが、幸福感に押し出され言葉になって噴き出した。  レイターが俺

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(11)

戦艦アレクサンドリア号に帰還したレイターは「ハミルトンがハゲタカ大尉を撃墜した」と泣きながら報告した。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)  ハゲタカ大尉がレイターを激しく攻め立てる。  超ハイスピードで乱れ飛ぶレーザー弾とミサイル。  それをレイターは的確にかわしていく。まるで弾道が事前にわかっているようだ。  音声はない。だが、「なぜ当たらない?」と焦るハゲタカ大尉の声が聞こえる気がする

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(12)

一人だけ帰還したレイターは身体を起こすことができなかった。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)  自室の二段ベッドの下の段、私のベッドでレイターはただ横たわっていた。  生命維持に必要な水分と栄養を点滴で摂らせる。  ヘルスモニターをチェックする。ほとんど眠っていない。睡眠障害を起こしているな。 「睡眠薬いるか?」 「いらねぇ」 「眠れないんじゃないのか?」 「寝たくねぇんだ。『

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(最終回)

ハゲタカ大尉との対戦映像を見ていたレイターは、ハミルトン少尉が自分をかばって撃ち落されたところで映像を止めた。 ・銀河フェニックス物語 総目次 ・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12) 「大丈夫か?」 「大丈夫だ」  レイターは自分で再生のスイッチを押した。  映像を凝視する。  ハゲタカ大尉とレイターの機体は、一対一で向かい合った。  人間業とは思えない、恐ろしいスピードで撃ち合い始めた。 「何だこりゃ?