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銀河フェニックス物語Ⅰ【少年編】

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レイターとアーサーが十二歳から十五歳まで乗っていた、戦艦アレキサンドリア号での物語。
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#銀河フェニックス物語

銀河フェニックス物語 総目次

イラスト付き縦スク小説『銀河フェニックス物語』の内容が一目でわかる目次を作ってみました。 <出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」記念すべき第一話。新入社員のティリーが「厄病神」のレイターの船で初めての出張に出かけますが、革命規模の大規模デモに巻き込まれて…… <出会い編>第二話「緑の星の闇の向こうに」第一話の一週間後のお話。同期の代わりに出張へ出かけたティリーは、今度は環境テロに巻き込まれます <出会い編>第三話「レースを観るならココ!と言われて」宇宙船レースを観るのが

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(15)感謝祭の大魔術

「将軍、おめでとう!」  冷やかしの歓声が更に爆笑を誘う。無礼講だ。今日の出し物で一番笑いを取っているのではないだろうか。  もう、どうにでもなれ。  やけを起こすとはこういうことか。私は手にしていたハートのクイーンのカード五十二枚を観客に向けて一気に投げつけた。 「連邦軍に幸あれ!」  気持ちがいいほど飛んでいく。まるで花吹雪だ。快感だ。皆が笑いながらカードを奪い合う。可笑しい。腹筋が揺れ、笑い声を止めることができない。腹の底から笑うというのはこういうことか。 「坊ちゃん

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(14)感謝祭の大魔術

 一瞬の静寂の後、清らかなアルペジオのギター音が会場に響いた。  新曲『ハレルヤ』の前奏だ。このスペクタル大魔術のためにヌイが作った。隊員たちは何が始まるのかと私を見つめる。 「”ハレルヤ~”」  歌声が届いた。ヌイとレイターのコーラス。  レイターの高音を聞いた時、身体中の筋肉が弛緩するのを感じた。自分は想像以上に緊張していた。 「”僕らは生まれ変わる”」  歌いながらレイターとヌイが舞台の袖から入ってくる。 「ブラボー!」 「ヒュー!」  歓声が連鎖するように沸き起こっ

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(13)感謝祭の大魔術

「女王は私の手に」  声を張り、胸ポケットからハートのクイーンを取り出す。ゆっくりと副長と観客に見せる。 「へぇ~」  感嘆の声が漏れる。 「どういうことだ?。おい、そのクイーンのカードを見せてくれ」  いつも冷静な副長が慌てている。隊員たちが笑った。レイターのシナリオ通りだ。  手にあるカードを渡す。副長は真面目で細かい。さっきのカードとは違う、とか言い出したらどうする。現場対応力が問われている。 「う~っむ、わからんな」  助かった。モリノ副長は眉間にしわを寄せたまま席へ

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(12)感謝祭の大魔術

 アレック艦長はモノマネを披露していた。  ただ誰の真似だかさっぱり分からない。私だけではなく他の隊員たちも反応に困っている。艦長は自分では面白いと思っているのだろうが、「下手くそお!」とヤジが飛び、笑いを誘っていた。今日は無礼講だ。  順番が近づいて来た。  私は楽屋として用意された裏の部屋でマジシャンの衣装に着替えた。帽子をかぶりマントを付ける。  ぶかぶかのタキシードを着たレイターが近づいてきた。 「最後はあんたと手をつないで万歳してから、礼をする。右、左、真ん中だ

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(11)感謝祭の大魔術

 黒マントと帽子も用意されていた。ライトを浴びると小さな飾りが反射して輝く。 「帽子やマントの必要があるのか?」 「あんた、技術が未熟なんだから衣装やパフォーマンスでカバーするしかねぇだろが。マジシャンらしいほうがみんな騙されやすいんだよ」  師匠の言葉に私は反論できなかった。 「似合うじゃん」  レイターが黒づくめの私を見て言った。 「お前は似合わないな」 「うるせぇよ。何といっても俺は王子さまだからな」  蝶ネクタイにタキシードという衣装はサイズがあっておらず、まるで

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(10)感謝祭の大魔術

「面白いだろ」 「面白いな」 「で、あんたの勲章貸して欲しいんだ」 「大佐の俺のじゃ、将軍には足りないぞ」 「いいんだよ、作りものじゃねぇ、ってとこが大事なんだ。昔、将軍と一緒にもらった奴があんだろ」 「ふむ、これか」  俺は引き出しから古い勲章を取り出した。 「サンキュー」  ひったくるように手にすると、レイターは来た時と同じようにスっと姿を消した。あいつとはどうも気が合う。拾って良かったな。  **  血液の流れる音、にはたどり着けていない。  だが、身体を動かすた

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(9)感謝祭の大魔術

 自室に戻るとレイターはベッドに寝っ転がってレース動画を見ていた。  いざ、本人を前にすると上手く言い出せない。「師匠になってください」か「弟子にしてください」か。そんなことを言ったら「師匠と呼べ」とか「金払え」とか言い出しそうだ。  やはり無理だ。あきらめかけた私にレイターは身体を起こして声をかけてきた。 「どうかしたか?」  こいつは何かと目ざとい。私の迷いを敏感にかぎ取る。どうにでもなれという気持ちで口にした。 「カードのシャッフルを教えて欲しいんだ」 「あん? あん

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(8)感謝祭の大魔術

「そんな難しい顔しないでおくれ、お前さんはこれでプロになるわけじゃないんだから。感謝祭の出し物としては申し分ないよ」  ヌイの言っていることは正しい。だが、釈然としない。 「どうして、レイターはそれが出来るんでしょうか?」 「うーん。あの子はいい先生に恵まれているね。一流、と言うのかな。本物に触れて育ってる」  やはり話は師匠へと辿り着く。カレット・メアはプロのマジシャンの中でもトップクラスだった。ヌイはレイターの過去をどのぐらい知っているのだろう。 「一流の人だったんだと

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(7)感謝祭の大魔術

 目に見えないこと。レイターは語彙力は少ないが時に真実を含む言葉を放つ。 「カーペンターもそうだったんだよな。最初は言ってる意味が全然分かんねぇんだけど、ある日、急にわかっちゃったりするんだ。師匠って何だか似てるな」  レイターが師匠と仰ぐ元S1レーサーの「超速」バラドレック・カーペンター。  彼から何を教わったのかわからないが、レイターの操縦は尋常ではない。生まれつきの才能に加えて、師匠が正しいルートで導き、最短でたどり着いていると推知できる。  一方でこれまで私には師匠

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(6)感謝祭の大魔術

 隊員たちが僕のことを「将軍家のお坊ちゃん」と揶揄して呼んでいることは知っている。いい気はしない。僕が「その呼び方はやめてください」と言えば、おそらく誰も使わなくなるだろう。だが、それは根本解決ではない。僕個人の快か不快かで思料する話ではないのだ。連邦軍に影響があるかどうかで判断すべき案件だ。僕は十二歳で特別待遇を受けている。これは事実であり、やっかみに対するガス抜きであれば、このままにしておいた方がいい。一方で放置することで将軍家への信頼が損なわれるのであれば、対策が必要だ

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(5)感謝祭の大魔術

 女王が描かれたハートのクイーンだ。  レイターの動作を思い返す。どこかで何かをしているはずだ。記憶を手繰り寄せる。 「手渡す際にカードの束をすり替えたな」  僕の答えにヌイが驚いた。  あいつが「確認してくれねぇか」と僕にカードを渡す瞬間、手で死角ができていた。普通に見ていても気づかない。だが僕は脳内で何度でも速度を変えて再生ができる。クイーンの入っていないトランプとすり替えたタイミングはここだ。  レイターは平然としていた。 「さすが天才、と言いてぇところだが、そいつは、

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(4)感謝祭の大魔術

「お前さん、他にも手品できるのかい?」  僕は聞いた。 「トランプある?」 「レクリエーション室にあるぞ」  バルダンがトランプを取ってきた。 「タネも仕掛けもありません」  レイターは手慣れていた。カードを切るその指遣いが美しい。思わず見とれる。 「お前上手いな」  バルダンも感心している。レイターが調子に乗ってカードを扇の様に開いたり自由自在に操っている。 「お前さん、感謝祭でそれを披露すればいいんじゃないかい」 「だから、俺がやっても面白く無ぇだろが」 「面白いけどな」

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(3)感謝祭の大魔術

「お前さんたち、坊ちゃんが女装すると本気で思ってるのかい。レイター、お前さんが歌姫の格好をしてギミラブ歌えばいいだろ」  レイターが口をとがらせた。 「俺じゃつまんねぇよ。意外性があるから隠し芸なんだろ。女装じゃなくていいから、あいつに仮装させてぇな」  バルダンが身を乗り出す。 「仮装か面白いな。何に仮装させる? ロックスターか」 「歌わねぇロックスターより、いいアイデアがあるぜ」 「なんだ?」 「将軍様さ」 「バカか、親睦会だぞ」  パシンッとレイターの頭をバルダンがはた