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銀河フェニックス物語Ⅰ【少年編】

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レイターとアーサーが十二歳から十五歳まで乗っていた、戦艦アレキサンドリア号での物語。
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2024年2月の記事一覧

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(22)量産型ひまわりの七日間

** 「坊ちゃん大丈夫ですか?」  馬乗りになったバルダン軍曹が僕を見ている。 「僕は殺されましたね」 「そうですな。俺は逃しませんから」  白兵戦の訓練中だった。僕が集中を欠いた一瞬だった。軍曹に背後を取られ転がされた。 「珍しいですな。坊ちゃんに隙があった」  僕が身体を起こすと軍曹は隣に座った。 「考え事をしていました」 「訓練中に?」 「これは、実際の戦地でも考えることかも知れません」 「ほう、何を考えていたんですか?」  僕は正直に答えた。 「人を殺すということ

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(21)量産型ひまわりの七日間

 拘束室へと戻る帰りの廊下で、自分は驚くべきことを目撃した。  この戦艦に幼い子どもが乗っていたのだ。男の子は走って近づいてくると、高い声で自分に話しかけてきた。語尾が上がる疑問形。何かをたずねているようだ。  くりくりとした目で自分を見つめる。敵意は感じない。  ヌイ軍曹が少年をたしなめる。 「すみません、騒がしい子で。ひまわりが図鑑と違っていたようで気になったようです」 「ひまわり?」 「ああ、我々はV五型機のことをひまわりという黄色い花の名称で呼んでいるんです。明るく

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(20)量産型ひまわりの七日間

**  さて、どうしたものか。捕虜の身ながらトレーニングルームへの出入りを許可され、部屋から出るチャンスは得た。 「あなたが六年間鮫ノ口で行ってきた任務を、人権委員会でお話しいただけないでしょうか」  彼の提案後、尋問の時間はなくなった。自分に回答権を委ねているということだ。  あの少年は忙しいのだろう。トレーニングルームの見張りはヌイ軍曹と屈強な兵士に変わった。  背の高い兵士は戦地を潜り抜けてきた目をしていた。敵を殺すという軍人の仕事を自分と同じように経験しているの

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(19)量産型ひまわりの七日間

 フチチ大空襲は客観的に見れば虐殺だが、アリオロンからすれば成功した作戦だ。参加したグリロット中尉は何を考えて爆撃したのだろう。  彼は、フチチ大空襲の話を持ち出すと、決まって機嫌が悪くなった。どの作戦に参加したにせよ、フチチ市民の殺害に関わっている。僕と似たような後悔と懺悔を突き付けられる機会があったのかも知れない。 「人権委員会で話してほしい」という僕の提案に乗ってくれるだろうか。  彼は聡明だ。『亜空間破壊兵器』について把握し、その威力の大きさに憂慮の念を抱いていれば