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銀河フェニックス物語Ⅰ【少年編】

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レイターとアーサーが十二歳から十五歳まで乗っていた、戦艦アレキサンドリア号での物語。
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2023年12月の記事一覧

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(14)量産型ひまわりの七日間

**  きょうは、ヌイではなく僕が尋問を行う。  軽い緊張を持って尋問室へ入ると、グリロット中尉はいつもと変わらず静かに座っていた。 「あなたは、領空侵犯する前に鮫ノ口暗黒星雲で何をしていたのですか?」 「……」  微動だにしないが、僕の質問の意味を考えている様子だ。補足の質問をぶつける。 「タロガロ基地から直接フチチへ来たわけではないですね?」 「黙秘します」  これまでのやりとりから推察するに、彼が黙秘を使う時は「当たり」だ。 「何かの任務とあわせて、侵犯したのでは

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(13)量産型ひまわりの七日間

 アリオロンの帝都ログイオンで開催された学会記事だった。 『亜空間破壊兵器について』と題されている。  高密度の星間物質を亜空間に送り込んで、意図的に時空震を発生させ、その巨大エネルギーを兵器利用する理論だ。実現すれば宇宙を崩壊させるほどの力を持つ、と指摘している。  当時、学会では夢物語でしかない空想科学兵器、として扱われ一顧だにされなかったようだ。  だが、亜空間飛行技術が進化した今、亜空間を利用して時空震を発生させることは不可能ではない。問題は制御ができないことだ。自

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(12) 量産型ひまわりの七日間

** 「トレーニングルームにご案内いたします」  丁寧な言葉とは裏腹に将軍家の少年は不機嫌そうな顔で手錠を付けた自分に銃を突き付けていた。ヌイ軍曹が腰縄を握っている。厳重すぎるほどの警戒だ。  廊下へ一歩踏み出す。初めて部屋の外へ出られた。これは成果だ。  艦内通路の武骨な雰囲気は我が軍の戦艦と似ている。少し連邦の照明の方が明るいか。エンジン音の聞こえる方向を確認する。ここは艦内後部だな。  角を回るとトレーニングルームは、すぐだった。これでは逃走ルートは確保しづらい。

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(11) 量産型ひまわりの七日間

 **  ベッドの上の段から聞こえるうめき声で目が覚めた。  レイターがうなされている。 「ダグ、やめろ」  微かに言葉が聞き取れる。また悪夢を見ているのか。レイターによれば、ダグと自分に殺される『赤い夢』。  ストレス障害の症状だ。このところ落ち着いていたのに、あいつに何かあったのか?  目を覚まさせてやったほうがいいが、身体を起こすのが面倒くさい。  このところ捕虜への対応が忙しく疲れている。部屋には寝るために戻るぐらいだ。せめて睡眠で体調を整えておきたいのに、と思っ

銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(10) 量産型ひまわりの七日間

** 「へぃ、いらっしゃい」  俺はいつもの通り食堂で働いていた。  モリノ副長が入ってきて列に並んだ。心臓がドクンと音を立てる。 『何があっても普段と変わらずにいろ。そうすれば生き残れる』ダグの声が耳の奥で響く。明るく副長の顔を見る。 「今日のおすすめはトマト煮だよ」 「それをもらおう」 「あいよ」  少し勢いをつけてよそう。想定通りに皿の縁に真っ赤なトマトソースがはねた。拭うためのナプキンを右手に取る。  同時にポケットからカプセルを取り出し握り込んだ。大丈夫だ。こ