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銀河フェニックス物語 <出品集>

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2024年7月の記事一覧

緑の森の闇の向こうに【創作大賞2024】まとめ読み版

 その時は、単なる事務連絡だと思った。  「三十九度の高熱が出て、自宅で寝込んでる」  いつも元気なベルの声がかすれていた。 「お大事に」  と返してから気が付いた。ベルは明日からパキ星へ出張に出かける予定が入っている。即座に課長が近づいてきた。 「ティリー君、休暇の日程をずらせないかい。申し訳ないが、ベル君の代わりに出張へ行ってもらいたいんだ」  わたしは明日から三日間、特別休暇をもらえることになっていた。ゆっくり休みたいのが本音だ。一方で課内でほかに動ける人がいないことも

緑の森の闇の向こうに 第12話(最終回)【創作大賞2024】

* * 「ただいまぁ」  フェニックス号の居間にレイターの間延びした声が聞こえた。  わたしは大急ぎでタラップへと走った。レイターとダルダさんが二人そろって立っていた。 「よっ、約束は守ったぜ」  よく無事で帰ってきてくれた。レイターの笑顔を見たら涙がでてきた。よかった。本当によかった。 「あれ? 今回も熱烈歓迎頼むぜ」  レイターったら、にやりと笑ってハグを求めてきた。 「バカバカバカ」  泣いているんだか、怒っているんだか、自分の感情がお天気雨のようだ。 「ガハハハ。

緑の森の闇の向こうに 第11話【創作大賞2024】

 とにかく風が強い。レイターは顔をしかめた。  機体をつかむ指が痺れてきた。ちっ、いつもより身体が重てぇ。先週の怪我が響いてんな。 「っはん。こんなところで落っこちたら、ティリーさんに叱られちまうぜ」  指先に力を込めて体勢を整える。 「そこのヘリコプター。止まりなさい」  ヘリパトが近づいてきた。MM二十六が逃げるように速度を上げる。田舎警察のへぼいへリじゃ追いつけねぇな。  着陸脚に身体を固定し、腕につけた無線機のスイッチを入れた。 「おい、アーサー聞こえるか? NR

緑の森の闇の向こうに 第10話【創作大賞2024】

 レイターは耳がいい。エンジンやローターの回転音で大体の機種はわかる。だが、地上ではサイレンが、上空はヘリの音が響き現場は騒がしい。集中しねぇときついな。その時、微妙に高音のへリの音が聞こえた。  来た。MM二十六だ。かなり高度が高い。  小型砲を軍用ヘリに向けて構える。と、その時、ティリーから慌てた声で連絡が入った。 「レイター、大変よ。NRは熱デギ放射砲を購入しているわ」 「熱デギ放射砲? マジかよ」  おいおい、そんな破壊兵器でヘリから撃たれたら半径五百メートルがぶっ