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【RESAS(地域経済分析システム)はデザイン×アート思考で創られた】


『日本の「RESAS」(地域経済分析システム)には大いに啓発されました。これによって一時的な現象や特定層の意見のみにとらわれず、産業や教育、人口密度といった細かなデータに基づいて地方創生を議論できます。証拠に基づいた政策立案が可能になるわけです』(
オードリー・タン
週刊東洋経済 『台湾デジタル社会は健全、中国と大きな差をつけた』より

プロジェクトマネージメントを務めさせて頂いた地域経済分析システム通称「RESAS」が「世界の頭脳100人」の1人台湾のデジタル大臣オードリー・タン氏に評価されるのはとても嬉しい事です。なぜなら、ここ20年の間でもっとも過酷な現場だったからです。RESAS納品後、私は大手企業の新規事業や国の仕事を一切止めて身近な地域の活性化とアート思考のセミナーを中心にしました。自分にとって最大で最後にしたい大仕事だったのです。

「RESAS」は、もともと経産省中小企業庁調査室の中で様々なデータを集めビッグデータを可視化(ビジュアライズ)して日本の人口や経済、観光を視覚的に把握する事を目的に立ち上がったコンソーシアムの構想でした。現在、V-RESASという形に進化し、よりリアルタイムな情報が可視化されています。

当初は2年以上かけて製作するプロジェクトでしたが、内閣府 「まちひとしごと創生本部」当時の石破地方創生担当大臣の目に止まり、地方創生加速化交付金1000億円がバラマキ(税金の無駄使い)を是正する為に、自治体が自らの地域を客観的に把握して補助金申請をする様にと石破大臣からの勅令により完成時期が早まり2年のプロジェクトを約半年で完成させることになりました。初年度制作費約5億円、データの総額で言えば500億以上はあったと思います。

この日本最大級のビックデータビジュアライズシステム「RESAS」はデザイン×アート思考で作られました。超短期間で納品させるために取った手段はアジャイル開発(計画段階で変更がある事を前提として仕様書は作らず即興的に構築する方法)でした。通常の開発で半年という期間では仕様書を作るのでやっとでしょう。

アジャイル

ウォーターフォール開発とアジャイル開発の対比を見てもらうとわかるようにウォーターフォールロジカル思考。対するアジャイルデザイン思考であることがわかると思います。ユーザー、または顧客ニューズを優先し柔軟かつ直感的にプロトタイプを作り検証しながら創られていく。結果として納品物に利用マニュアルはあっても仕様書や設計図的なものは何もありません。行政案件で仕様書なしでこれだけの規模の開発を納品すること自体異例なことでしょう。

また、プロジェクトチームのコアメンバーは全員アート思考の強いミュージシャンや音楽が好きなスタッフを採用しました。超時短で納品する為には柔軟で即興的に対応できる創造性の高いチームを編成する必要がありました。ロジカルな思考をするプログラマーとイメージ優先で直感的かつ即興的にデータをビジュアライズする感性の両方を持ち合わせた才能が必要でした。自分の周りにはクラブ系のDJやミュージシャンが多く、結果としてDJやトラックメーカーでチームを編成しました。また、そのチームはオーケストラのような中央集権の組織ではなく、ジャズの様な並列分散型の即興的な組織になっていきました。これは必然的な流れでもありましたが、その環境に対応できる制作環境としてチームラボの皆さんに制作を依頼しました。

1時間オンライン テック系ー

制作は難航しました。家に帰れない日々が続き、カプセルホテルで仮眠して作業に入るという日々の途中、JRの駅で佇んでいた時、国益ともいうべき情報を預かる責任と本当に完成するのか?という不安に潰されそうになりここに飛び降りたら全て終わる、、逃げられる、、といいう思いになったのを覚えています。そこまで追い詰められていましたが、信頼できるチームに支えられなんとか納品に漕ぎ着けました。

おそらく、政府の大規模開発でこんな形で創られたウエブシステムは他にはないかもしれません。オープニングパーティーで石破さんが、日本はもっと早い時期からホワイトハッカーと仕事をしておくべきだった、、といっていたのが印象的でした。

当時は、「どんな形になるんだろうという」という期待とワクワク、地方活性化への使命と無駄にばら撒かれる血税の有効利用、、など完成した未来への期待に突き動かされていたように思います。今となっては当時何をしていたか、あまり記憶していません。私個人としては終わったこと(出来上がった作品)には興味がありません。 忘れることもある意味、アート思考の特性かもしれないですね。

日本の「RESAS」(地域経済分析システム)には大いに啓発されました。これによって一時的な現象や特定層の意見のみにとらわれず、産業や教育、人口密度といった細かなデータに基づいて地方創生を議論できます。証拠に基づいた政策立案が可能になるわけです。
台湾にも「RESAS」を参考にした「TESAS」というシステムがありますが、正直にいえば、農業などの産業・経済分野とITとの連携面では、台湾は日本に及びません。日本からはまだ多くのことを学ぶ必要があります。
週刊東洋経済 『台湾デジタル社会は健全、中国と大きな差をつけた』より引用 

結果として、地方創生という目的に加え、オードリー・タン氏が評価する開かれたデジタル民主主義の一端を担うシステムになってるのかもしれないですね。


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