それぞれの味方
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⑤それぞれの味方
マンションの階段の下で泣き崩れた私は、友人に電話をしていた。
「もっしもっし、うっうっ、ゆうっ、ちゃんっ。うっうっ」しゃくりながら話す私に驚いた彼女は「えっ?!どうした」と言ったあと、いつもよりずっと優しい声で「どうした〜」ともう一度言った。
「うん…うん……」ととても丁寧に相槌を打ってくれる。
「はぁぁぁああああ?!?!」
ブチギレるゆうちゃんの声が響き渡り、私はスマホを耳から離す。
とても情に熱い彼女は、プロポーズを自分のことのように喜んでくれていた。
それだけに、怒りのボルテージもものすごく上がっているようだ。
「どういうつもりで親連れてきたん?!」
「こっちから願い下げじゃ!!!」
「だいたいね、」
(こりゃホースで水かけないと鎮火できないな)とおもった。
彼女とは正反対に冷静になってゆく。
だんだん笑えてきた。
常日頃、100:0でどちらか一方が完全に悪いということはほぼないと思っている。
以前元彼に「俺はいつどんな時だって、100%ももちゃんの味方だよ」と言われて、違和感を抱いたことがあった。
甘い台詞のつもりらしいけど、私が悪いこともあるかもしれないのに、変なの。というのが感想だった。
「それより、冷静に判断して、私にも悪いところがあったらちゃんと言ってくれる方がいいよ」と返し、困惑された出来事を思い出した。今思うとなんて可愛くない。
今回の件も、彼にも、彼のお母さんにも、立場や事情、考えがあって当然だ。
私が引き金を引く要因にもなった。予定より早くプロポーズをすることになるような状況を作ったのは私なのだ。
それなのに、友人がけちょんけちょんに言ってくれたことで、どこかすっきりしている自分がいた。
100%私の味方でいてくれることが、初めてものすごくありがたかった。
「言い過ぎだよ」「まぁ、むこうにも選ぶ権利あるしね」なんて、涙を拭って笑いながら、電話を切った。
そして少し落ち着いたわたしは、もうひとり、大事な友人に電話をした。
ゆり。同じようにプロポーズを喜んでくれた友人だ。
彼女の旦那は、彼と同じく大きな病院で働く医者で、お父様も医者だった。生まれたばかりの息子も、医者にさせたいと言っていた。
一通り話を聞いた彼女は、
「わたしは…ももが心配。ももの友達として、悲しいし、悔しいし、ただ心配だよ」
そう泣きそうな声で、何度も言った。
いろんなことを汲み取って、ありがとうと言って電話を切った。
やはりそうだ。
私のまわりには私をかばってくれる人がいて、彼のまわりには彼をかばう人がいる。
ゆりは彼のまわりの環境に近い分、見えることや理解できてしまう気持ちもあるだろう。
大切な人に言ってあげたいことばを、みんなそれぞれが持っている。
正義とか善悪だけではなく、違う立場で、味方になりたいとおもう心で、こたえは変わってゆく。
傷つけ合った人それぞれのコミュニティで、それぞれが救われ、世界は成り立っている。
これは、たったひとつの、一方向から見た小さな小さな出来事に過ぎない。
そう考えると、仕方がないことだとおもえた。