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第11話 【2カ国目エチオピア①】事件と強さ「アフリカンジャーニー〜世界一周備忘録(小説)〜」

「危険な街なのに、良い街だと断言している―」

エチオピアという国の最初の印象はこんな感じだった気がする。

出会う旅人達の人間性が良いのか。本当に良い街なのか僕にはまだ判断が出来なかった―

外務省からの注意喚起

「タクシードライバーによる強盗が発生している―」

ジュンさん、タイシと共にエチオピアに向かう前に外務省が発信している情報を目にする。

外務省が発表している文章によれば、僕らがエチオピアに到着する数日前にタクシードライバーによる日本人に対しての強盗が発生したようだった。

その日本人がタクシーに乗っている時にタクシードライバーから「検問があるから一旦降りてくれ」と指示があったらしい。

その日本人は指示通り荷物を置いたままタクシーから一時的に降りたのだが、直後にドライバーが荷物を積んだまま逃走したのだ。

金銭や持ち物はもちろんカバンの中に入れていたパスポートも一緒に取られたとその情報には記載されていた。

いよいよアフリカらしくなってきたな―

僕ら3人はその情報を胸に、気を引き締めてエチオピアに入国していった―

ホテルで出会った被害者たち

僕らは最新の注意を払いながら朝の8時前にホテルにチェックインした。

チェックインしたホテルはボレ国際空港があるアディアベバの中で最安のホテル「MAD VERVET HOTEL」」である。

朝の早い段階にチェックインしたため、部屋の準備ができるまで数時間ロビーで僕ら3人は待たされていた。

その僕等の前に、「これから日本大使館に行く」という日本人の男性が姿を現したのだ―

エチオピアはとても良い国です

「実は僕、タクシー強盗に合ってしまって。パスポート再発行がエチオピアでは出来ないので日本に帰るための手続きをしに行くんですよね―」

目の前に現れた男性は"旅人らしい髭を生やし"ドレッド風の髪"をしている日本人だった。

全体的に毛に覆われた見た目とは裏腹に、とても爽やかに見える優しそうな男性である。

キラキラと輝いている目と物腰の柔らかい丁寧な口調がそういった印象を与えてくれたのかも知れない。

「もしかして、外務省で注意喚起されていた事件の人ですか?」

彼の話しを聞いた僕等は、エチオピア入国前に確認した内容と同じ出来事を語る男性に思わず問いかけていた。

「そうなんです…」

そう言いながら、彼は事の仔細を教えてくれた。

話しを聞いているだけでも、辛い経験であることは間違いないのであるが彼からは全くの「怒りや悔しさ、卑屈さ」を感じることはなかった。

「こんな事があったので気をつけてください。でも、エチオピアは人も優しいし、本当に良い街ですよ。」

逆に、出発間際に僕等にこんな言葉を掛けてくれたのだった。

もう一人のドイツ人被害者

「僕の経験は特別なことで全てではない。この経験をみんなに注意喚起できるだろ?」

目の前のドイツ人が冗談まじりにそう笑っている。

その姿は、事件を必要以上に悲観的なものにせず、かといって極端に楽観的なものにもせず「ありのままを受け止める」という彼の人間性を感じさせるものだった―

僕達がチェックインしたその夜にもう一つ事件が起こった。

同日にチェックインしていたドイツ人男性が夜、外出からタクシーで帰ってきた時の出来事である。

宿の近くで降ろされた彼がホテルに向かって歩いている時に、いきなり後ろから羽交い締めにされスマートフォンや金銭を全て奪われたのだ。

降車した位置からホテルまでの距離は僅か10m程だったという。

連日続く事件にホテルでは注意喚起が促されていた。

翌日、そのドイツ人と中庭で会い「彼に起こった出来事について」話していると彼はこう言っていたのだ。

「僕の経験で誰か危険が取り払えたかもしれないと―」

少し落ち込んだ表情を見せることも合ったが、彼はその後の周りの助けや「エチオピアという国が悪い」というわけではないということを冗談めかしながら教えてくれた。

【タクシー強盗と追い剥ぎ―】

僕が同じ状況になれば、エチオピア人を恨み「何で自分だけ」と卑屈になっていたのではないだろうかとそんな思いが浮かぶ。

しかし、実際に被害に合った彼らは誰かを責めるような素振りは見せないのだった―

旅人は自己責任、そして優しい

「旅に出ている以上自己責任がつきまとう―」

僕自身が彼らと同じ経験をした時に「そこまでの度量」を示すことができるだろうか。

【器量ではなく度量である】

彼らからは確実に、自分に起こった不慮の出来事が「他の旅人たちの楽しみを奪うものにしてはいけない」という配慮が感じられた。

そして、一つの出来事でその国のことを判断をしてはいけないという気持ちが合ったはずだ。

言葉で言うほどこれは簡単なことではない。

しかし、彼らは自分のことよりも「相手を慮る事を選んでいた」気がする。

【旅人は優しい―】

僕はこれまで出会った旅人に対してそのようなことを思っていた。

そして、彼らの言葉を聞いていると新たに心のなかに浮かんだ事がある。

「旅は自己責任だからこそ優しくなれるのだと―」

誰かに優しくできるというのは「自己責任である」という思いが根底にあるからかもしれない。

間違いなく彼らは「旅は自己責任」であるという姿勢を、良くない出来事が起こった後でも崩していなかった。

「自己責任」とは人を責めないということであろう。繰り返しになるが、これは口で言うほど簡単なことではない。

僕はこれまでの旅では意識することがなかった、旅人の強さを感じたような気がした。

エジプトで感じた"人間は解釈によって変わる"ということを違う形で思い出していた―

素敵なエチオピア人達

「出会うエチオピア人は良い人たちばかりであった―」

始まりこそ恐怖感が強まっったエチオピアだったが、実際に接した人たちは陽気で優しく良い人たちだった。

彼らが一概に「この事件だけでエチオピア人を判断してはいけない」という思いを持っていたことが少しずつ分かるような気がしていて―

行きつけの酒場と奢り

「滞在一週間で毎日通った酒場がある―」

エジプトでは宗教的にあまり見かけることが出来なかった酒場が、小さいながらエチオピアには沢山あった。

その中のホテルから近い一つの場所に、毎日のように通いジョッキでビールを飲んでいた。

「久しぶりに飲むジョッキでのビールの味は最高である―」

日本車が多く走るエチオピアだからだろうか、日本人の僕らに対してとてもフレンドリーで交流できることを喜んでいるように感じた。

そして彼らは、時折僕等に酒を奢ってくれたのである。

エジプトではあまり感じられなかった光景に、同じアフリカであっても国が変わればここまで違うのかという印象を抱いた―

女性の周りに人が集まっている

「女性を囲み笑顔になる―」

これがエチオピアで感じたもう一つの印象だった気がする。

イスラム教が主な宗教となっていたエジプトでは、女性が店頭に立つということはほとんど見られなかった。

しかし、エチオピアではほとんどの酒場や飲食店、露店で店を構えるコーヒー屋で店番をしているのが女性だったのだ。

そして、その女性を囲み全員で話しが展開されている。

女性が笑顔であれば周りに集まる人達も、自然と笑顔になっていく。

異国の人間である僕も彼らと同じくその空間を共有していた。

確かに、話に聞いていた通りエチオピア人は優しい。

僕はそんな事を思いながら、次の街「マダガスカルへのフライトまで」エチオピアで過ごしていた―

◆次回
【旅は行きずりである。次口に訪れる別れに何を思うのか―】


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