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時効

◆弁護士 飛田 博

2022年10月27日日本経済新聞朝刊43頁の「父から性虐待 賠償棄却」「広島地裁 20年経過で請求権『消滅』」という見出しの記事から。

「幼少期から父親に性的虐待を受け心的外傷後ストレス傷害(PTSD)を発症したとして、広島市の40代女性が70代の父親に損害賠償約3700万円を求めた訴訟の判決で、広島地裁(大浜寿美裁判長)は26日、性的虐待の事実は認定したが、不法行為から20年で賠償請求権が消滅する民法の「除斥期間」を理由に、請求を棄却した。」
「女性側は2020年8月に提訴。PTSDの症状が顕著に現れたのは18年1月ころと主張し、医師の診断書も提出した。父親側は性行為などはおおむね認めたが、除斥期間などを主張していた。
大浜裁判長は判決理由で「10代後半には虐待に起因した症状による精神的苦痛が生じており、18年には除斥期間が経過した」と指摘。18年1月ころに症状が現れたという「客観的な裏付け証拠はない」とした。」

(飛田コメント)
この記事だけからではよくわかりませんが、実は、かなり複雑な法的論点が隠れているのではないかと思いました。

不法行為の時効・除斥期間を定めていた民法724条は、2017年に改正され、従来、「不法行為の時から20年間」というのは除斥期間だと解釈されていたわけですが、これが、時効期間に変更されました。
しかし、2017年民法改正の附則35条1項で、この改正法が施行された際に、現に不法行為のときから20年が経過していた場合には、「なお従前の例による」とされています。つまり、2017年民法改正の施行日時点で、既に不法行為のときから20年が経過していれば、改正後の民法724条は適用されず、請求権は除斥期間により消滅していることが確定しているということになります。

ところで、除斥期間と考えるのか、時効期間として考えるかの違いは何かというと、除斥期間とは、「被害者の認識如何を問わず一定の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたもの」とのことであり、時効の更新・完成猶予(むかしの「中断」)制度や、援用制度などの適用がないことです。もし20年が時効期間であれば、不法行為時から20年が経過しても、時効の更新・完成猶予制度で時効期間が満了していないとか、援用制度を利用して、時効の援用が信義則に反する、などと解釈して柔軟な解決ができるときでも、それができないということになります。

で、2017年民法改正は、2018年4月1日から施行されているのです。

記事によると、裁判長は、「18年には除斥期間が経過した」と判示したようですので、ちょうど2017年民法改正前の424条が適用されるのか、改正後の424条が適用されるのか、ぎりぎりの案件であったように思います。もっとも、記事からは、案件の詳しい内容はわかりませんので、2017年民法改正による改正後の424条が適用され、「不法行為の時から20年」の性質が、(除斥期間ではなく)時効期間でになっていたとしても、時効の更新・完成猶予や援用制度などを利用して、時効期間が満了していないという理屈を組み立てなければなりませんので、直ちに原告側が勝訴するというわけではないのですが・・・・

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