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스모크/SMOKE備忘録①

「剥製になってしまった天才」を知っているか?

李箱・小説『翼』

☑ 初めに
2021年に浅草九劇で上演された
ミュージカル『SMOKE』を観劇、
その後、ちまちま韓国語を勉強したり、
近代史を調べたりなどしている今日この頃。

『SMOKE』がきっかけで
訪れた場所や雑感をまとめました。
(増えたら追記するかも)
同時代を扱ったミュージカル『ラフへスト』
『ファンレター』を見る方もお時間があれば…。

紹介する場所については、
『스모크』が上演されている
大学路(テハンノ)の最寄り駅、
恵化(へファ)を出発地にしてみました。
韓国へ観劇に行かれる方は是非…!


☑️ 訪れた場所

1. 李箱の家

恵化駅から4号線で忠武路駅▶️
3号線に乗り換え景福宮駅へ(約15分)▶️徒歩5分くらい 
詩・小説・書簡を収めたアーカイブ
下段は解説書等

李箱が3歳から20年間暮らした
伯父の家があった場所。
当時の家は残ってはいませんが
記念館として公開されています。
ちなみにこの記事のトップ画は、
彼が暮らした部屋を象徴化した〈李箱の部屋〉という展示。苦しい。
※注意 12:00~13:00はお昼休み!

:『李箱作品集成(作品社)』や
 『翼 李箱作品集(光文社)』等
 日本でも翻訳本が出版されていますが、
 未収録の作品や書簡、
 作品発表時の紙面コピー等…!
:李箱は創作活動の中で日本語の文章や、
 漢字/ハングル/片仮名のハングル表記を
 織り交ぜ、実験的な作品を多数発表した
 作家なので、
 韓国語が分からなくても読める作品も…。

『SMOKE』で一部引用される詩『街衢ノ寒サ』
随筆・『東京』

"무슨 飲食이고간 얼마간의
「깨솔팅」맛을 免할수없다"
「何を食べても”ガソリン”の味がするんだ」
『ラフへスト』で引用されてますね

:私は英語も韓国語も全然できないので、
 案内してくださったお兄さんに感謝すら
 伝えられなかったのが本当に心残り…。
:小さな資料館にも関わらず2時間近く滞在する
 気味の悪い日本人だったろう。
:韓国語が解れば、
 新聞掲載時の紙面の広告から、
 当時の状況も想像できそうですよね。
:いずれまた、
 しっかり勉強したら訪れたいと思います。

2. 新世界百貨店(旧三越百貨店京城支店)

ここはホテルの最寄り市庁駅前から徒歩で…。
本館外装は補修工事中
気づかなくて途方もなく歩いた

李箱の小説『翼』に登場する”ミツコシ”(かも)
1926年に建設。
当時、朝鮮と満州最大の百貨店だった場所。
ミュージカル『ラフへスト』『ファンレター』にも登場します。

屋上庭園
昔は空を遮るものは少なかっただろうなと思いつつ

僕はどこからどこをほっつき歩いたのかひとつも覚えていない。ただ、何時間後かに自分がミツコシの屋上にいることに気づいたときにはほとんど真昼になっていた。

小説『翼』

:引用して気づいたけど、
 自分がそんな状態だったね…。
:市庁駅~明洞駅周辺には1930年代の建築物が
 今でも使われていて、
 当時はこんな雰囲気だったのかな、
 と想像を飛ばすこともできました。

道路向いにある旧韓国銀行(現:韓国銀行紙幣博物館)
隣にある旧朝鮮貯蓄銀行
(現:スタンダード・チャータード銀行)
四角の中の四角の中の四角…だ…笑

3. 植民地歴史博物館

恵化駅から4号線で淑大入口駅へ(15分)
徒歩10分くらい

:1930年代の作品を見るにあたって、
 "日本による植民地支配"については知るべきだ、
 と思い…

:日帝(大日本帝国)統治時代の資料等 
 1.なぜ日帝は朝鮮を侵略したのか
 2.日帝の侵略戦争ー朝鮮人に何が起こったか 
 3.同じ時代、違う人生ー親日と抗日ー 
 4.過去を乗り越える力ー
   いま私たちは何をするべきか
 の4部構成の資料展示。
:1930年代より少し前の時代を中心に、
 現代にも続く両国間の問題について、 
 逆の立場の視点を持つことができます。
:展示解説は全て韓国語ですが
 たしか16,000ウォンくらいで
 日本語訳のガイドブックを購入できます。
※注意!月曜休館!あと日本と違う連休!

:元々、”戦争”に対しては強い思い入れがあり、
 関連書籍を読んだり、資料館等には時折
 訪問していましたが、
 自国の【加害】の歴史に関して、
 認識が甘すぎたな…
 と痛感しました。
:日本の歴史教育は、
 その後の【終戦】に目を当てがちですし、
 悲惨さからの反戦教育に終始していると
 感じていますが、
 それ以前に【加害者側の側面】を
 持ち合わせているということは置き去りに
 語られている気がします。
:また、創作において近現代史は
 ある種タブーのような…
:もし、自分が韓国で産まれて同じように
 『스모크』を観ていたら、日本で上演されることに
 拒絶感はあるだろうなと思った。
(日本人として、
 今まで知ろうともしなかったんですから)

☑️ 雑感(おすすめなど)

1. 青空文庫『李箱』

:スマホで手軽に読める彼の作品まとめ。
 SMOKEやラフへストで分からない表現が
 出てきたら、ここで探すのも面白い時間。

2. ラジオ解説

:小説『翼』の紹介・解説文学ラジオ
 "剥製になってしまった天才"が意味するもの、
 当時の時代背景について学ぶことができます。

3.  李箱作品の好きなところ

:李箱の作品自体もすごく面白いので、
 ぜひ読んでみてほしいです。
:『李箱作品集成』は絶版していますが、
 図書館に収蔵されているので、
 ぜひ探してみてください。
:少しだけ、私の大好きな文章を引用します。

生きて怠けて死んで――曰く、生きることなら朝飯前だ。午後四時半。他の時間は皆どこに行ったのか。大袈裟に騒ぐことじゃない。一日が実質一時間もないからと言って何を苛立つことがあろう。

小説『蜘蛛、豚に会う』

僕の体と心に服のようにしっくりとくるこの部屋の中でぐったりと寝転んでいることは、幸福だの不幸だのという、そんな俗世的な計算を離れた最も便利で安逸な、いわば絶対的な状態なのだ。

小説『翼』

:漠然と自分の中ある不安や焦燥に対して、
 すぐ隣にその人がいてくれたようで、
 自分だけじゃなかったんだ。
 と、思えた。

4.  少しだけ今、思っていること

2021年に初めてSMOKEを日本で見た。
そこから李箱の【作品】に興味を持ち、
図書館で『李箱作品集成』を借りて
浅草九劇に向かった夏は忘れられない。
劇中で破られる文章が日本語に翻訳されて
21世紀の日本人が持っているから。

2024年の日本再演は、
韓国版と同じ추정화先生が演出を担当。
韓国のファンの方が、

「国も奪われ、言葉も奪われ、
 真っ昼間に強盗にあったようなこの時代に」
 という台詞は誰のためのものですか?

とXに投稿していたのが刺さった。
3年前にぼんやりとだけ把握した
【背景】を具体化するため
『스모크』の観劇に合わせて
植民地歴史博物館を見学した冬。

そして、帰国したら『ファンレター』の
上演告知で『스모크』よりも、
様々な意味で、現実に直面して、
そうして見た『SMOKE』が
2024年の春にありました。

未だに心の整理がついていないけども。
もうすぐ『ファンレター』も開幕します。

これらの作品が、
置き去りにしている【何か】に
気づくきっかけになったら良いなと思いつつ。