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【2025年度】京都大学 数学教室 院試(死)体験記 【口頭試問落ち】


自己紹介(事故紹介)

京都大学でない大学の機械工学科の4年生をやらせていただいている者です。なんとなく数学教室が受けたくなり、出願しました。

※受かった場合に限る

軽い興味があったという単純な理由で、第1希望は解析学(確率論)、第2希望は応用数学(計算機科学)としました。しかし、はじめに断りをいれますが、大学で学習した内容と志望した分野にはほとんど関わりはない状態でした。

本番

少し雨が降っていました

筆記試験

問題はこちらからご覧いただけます。
普段、試験は番号順・ページ順に解答するのですが、1問目の見た目に圧倒され、線形代数と留数積分から解きました。

基礎

1. 微積、広義二重積分です。答えは$${\int_0^{2\pi} \frac{d \theta}{1 + \left|\cos \theta\right|} = \frac{4}{|x|}}$$になるのではないかと思っていますが(違うかも)、絶対値をつけ忘れたり0から$${\pi}$$のまま変数変換して答えが0になったりして大混乱しました。
2. 線形代数、固有空間の次元の問題です。なんとかなったと思います。
3. 線形代数、対角化の問題です。迷走して解答用紙を1枚おかわりしました。途中で出てくる行列の成分を気合で書きましたが、問題文の$${n}$$次複素正方行列を3次に見間違えました。他にも軽微かつ恥ずかしいミスを犯しました。
4. 微積、収束判定の問題です。困難は分割せよということで、積分範囲0~∞を0~1と1~∞に分割し、前者をジョルダンの補題でしばきましたが、うろ覚えであったため係数を間違えました。(係数を書く必要はありませんでした🥺)後者は2nπ~2(n+1)πごとに考えてぐちゃぐちゃやりました。0<α<6となりましたが合っているかは知りません。
5. 留数積分です。分子にlogがあるのを見て発狂し、積分路をうまく取れず解答用紙を2枚もおかわりしました。最後に極限をとるパラメータを2個でよいのに冗長にも4個導入してしまいましたが、それらしい解を得ました。
6. 位相空間、連結性の問題です。何もわかりませんでした。(1)はわけのわからないことを書きました。(2)で$${K \cap \{x>y\}}$$, $${K \cap \{ x < y \}}$$は閉集合$${K}$$を分割する開集合だからと書きましたが、当然開集合ではないにしても、2つの閉包の共通部分がないことを示せばよかったようです。違うかもしれません。

専門
4. (1)やった正則値定理出た出た!(2)計算が爆発して解けませんでした。臨界点の計算って関係式を微分して代入とかしていいんですか?誰か教えてください。
11. 整列擬順序って何???????? 後で見たら(1)が(演習問題として試験にはなかったヒント付きで)書いてあるPDFが見つかり、内部生ずるいうらやましい……
10. 複素ポテンシャルの問題です。あわてて解こうとしましたが、無対策のため複素関数の微分ができませんでした。機械の院試対策も兼ねて流体力学をやっておけばよかった……

ということで甘く見積もった結果、
・基礎4完(1,2,4,5番)1半(3番)1クォーター(6番)
・専門0完1半(4番)
となりました。

甘めとはいえ、さすがに巷で言われている「基礎4完」相当の点数には届いたと思うんですが!!!!(受かっていない)

英語
 受験票とともに事前に候補問題5問が郵送されていました。

 専門科目の答案回収が遅れてしまい、携帯電話を起動する時間が必要であったために、カンペを見る時間は1分程度しかありませんでした。したがってカンペは事前に印刷して持ってきたほうがいくらか有利かもしれません。

 試験時間は短すぎで、語数が問題の指定を満たしているか調べる暇もありませんでした。

 昼食は学食(生協)で摂りました。試験場の斜め向かいにあり、アクセスはかなり良好でした。

 荷物は黒板の下のブルーシートの上に置かされました。

 試験場で配られた水は確か次のものでした。(ただしラベルが貼ってありませんでした。)災害用の備蓄水が配られると予想していましたが、大いに外れました。

 他に、荷物置き場の前にティッシュペーパーが置いており、挙手して鼻をかむことができたようです。(かんだティッシュは席に持ち帰れない。)

口頭試問

外部の人間の場合、事前調査で初日にするよう頼めば初日に口頭試問が行われるはずです。
ということでホテルを2泊分しかとっておらず、朝に追い出されたので散歩をしていました。

この日は晴れていました。※↑特に深い意図はありません

13:30に合格発表がありました。それまで京大で(くるいながら)ご飯を食べていました。

初日のみ(恐らく専門分野ごとに)3つの待合室があり、15分前に向かうように指示されます。各待合室ごとに、1時間ごとに受験者3名が割り当てられていていました。(自分のいた待合室では更にそこから2つの)面接室に電話で呼び出されるまで待合室で待機します。2つの面接室が分野で分けられているのか、単に2つあるのかはよくわかりません。

詳しく書けば、待合室には係の方が1名いらっしゃり、次のような説明を受けました。

  • 電話がかかってきたら係の方が取り次ぎ、呼び出してくれる。

  • 係の方に言えばトイレに行ったり、気分転換に少し廊下をうろつくことができる。その場合、係の方が電話でその旨を伝えてくれる。

  • 面接会場の先生方は移動に時間がかかることを分かっているので、あわてて階段で転ばないように気をつけてください。

面接会場には6名の方がいらっしゃいました。教室はそれくらいの人数がぎりぎり入る大きさで、横に長い形をしており、黒板がありました。面接の内容はうろ覚えですが、大まかには次のようでした。(実際の発言とは異なる場合があります。)

> 荷物を黒板の横に置いてください。
> 受験票を机の上に置いてください。
> 受験番号と名前を教えて下さい。
> 志望する研究分野をもう一度教えて下さい。
> 他の大学院を受験する予定はありますか?なお回答よって合否が左右されることはありません。
あります
> 両方とも合格した場合、どちらに進学しますか?
(うやむやにしたほうが合格者数が増えそうだ)
(長く話す)
> では未定ということでよろしいですね。
> これで形式的な質問は以上です。
> 専門科目では4番と11番を解いていますが、なぜですか?
そちらのほうが簡単そうだったからです
> それでは最初からそちらを解く予定であったということですね。
(うっ……)
> 大学院ではどのような研究を行う予定ですか?
(えっ???)
(何も思いつかない)
えっと、確率微分方程式に興味があります!
> では確率微分方程式を書いてください。
(dを書いて止まる)
> もう少しきれいに書けますか?
わかりません
> では確率積分を書いてください。
$${\int f d B_t}$$みたいなやつですよね!
> もう少しちゃんと書いてください。
(何も思いつかない)
何かが発展的可測で……(思いつく単語がこれしかない)
わかりません
> では大数の法則は知っていますか?
知っています
> ではそれを書いてみてください。
(えっ大数の法則って書けるの?)
(そもそも大数の法則って何だっけ???)
(なぜか期待値の和の公式を書き始める)
わかりません(発狂)
> セミナーを受けていますか?
セミナーは受けていませんが、研究室に配属されています
> 研究室での研究内容と確率論に関わりはありませんが、なぜ確率論を専攻しようと思ったのですか?
授業で確率論を学び、さらに先の内容について知りたいと思ったからです
> それは何と言う先生の授業ですか?
(名前をいう)
> 数学科ではないということですが、数学の勉強はどのように行いましたか?
半分は授業を聞き、半分は自習しました(何の半分かは言っていない🙄)
> 数学科のセミナーと工学部の研究ではどのような違いがありますか?
(場を和ませるための質問をありがたく頂いたとはいえ……)数学科のセミナーを受けたことがないのでわかりません
> 他の先生方、なにか質問はありますか?
> ルベーグ積分を学んだことはありますか?
はい
> ではFatouの補題は知っていますよね。
$${\lim \inf \int f d \mu ? \int \lim \inf f d \mu}$$
あれ不等号はどっちだっけ……(?を滅茶苦茶汚く書いてごまかす)
> そこは$${f}$$ではなく$${f_n}$$ですよね。
あっそうですね!
えっと$${f_n}$$の条件は……非負で……可測!
> 少なくともそこが不等号であることは知っているということですね。
あっはい!
> ではFatouの補題で等号が成り立たない例を知っていますか?
(???)
えっ……積分範囲は?
> ……
(liminfだから集積点が2個とかだろうな)
($${f_{2n} = 0, f_{2n + 1} = 1}$$を書く)
両方0になりますね……すみませんわかりません
> ではそこに可測と書いたと思いますが、可測の定義はわかりますか?
(???)
(単関数の定義をめちゃくちゃに書く)
> これで口頭試問は終了です。黒板を消して退出してください。
(解き直しさせないんかい!!!)

(何かを批判する意図は全くありません。)

 感想は言うまでもありません。もう少し解析学の内容を頭に入れておくべきでした。
 解き直しはさせられず、志望研究分野調査書や英語の試験の解答内容への言及もありませんでした。ただし解き直しをさせられなかったのは解き直しの対象が本来は専門科目であったものの(注:口頭試問では基礎科目か専門科目のどちらかを聞かれるという説に基づく(この説の出典が見つからない……))、選択した問題が解析学ではなく、かつ解析学の問題が解けなさそう/筆記試験の次の日であったため解く時間が十分に与えられていなかっためかもしれません。もしくは(こちらの動画のような感じで)申告制なんでしょうか???

↓直後の感想

↑直後の感想
↓数日後・合格発表後の感想

合格発表まで自分の専攻の院試を受けていました。

合格発表

合格発表は8/30 12:00のはずですが、何故か少なくとも前日の20時からURL直アクセス(2023-09を2024-08に変えるだけ)で合格発表のPDFファイルを見ることができました。こんな知り方をするとは……
来年のURLも今予測しておきます。

合格者数と面接の日時の関係

集合日別の合格者数
集合日・集合場所別の合格者数

 1次合格者は「理学研究科 3号館正面玄関」に掲示されていたようなので、誰でも見られた情報ということで統計を出しました。(合格者はインターネット上で誰でも見ることができます。)

各日付の受験者の特徴として
・21日は主に外部の人間?(内部生もいらっしゃったようですが)
・24日は主に阪大の受験者?(本来は「予備日」であり、また21-23日に阪大の院試があるため)
が挙げられると思います。

いや21日の不合格者9人って……落ちすぎ!!!

結論

開示は当分先であり、また他の院試解答を確認しておらず私の判断が正しいかわからないためなんとも言い難いですが、

  • 外部の人間は何らかの理由で口頭試問落ちしやすい?

  • 外部の人間である場合、恐らく基礎4完だけでは足りない!

  • 口頭試問対策として専攻したい分野の勉強もしよう!

    • 解き直ししたことを伝え、話題を捻じ曲げるべきだった?

  • 落ちた場合の保険を用意しておく?

    • 院試浪人自体に問題はないと思いますが、できた心の隙間に就職圧や他者の心配・同情その他が影響を与えてしまうのが怖いです。

    • (私はなぜか奇跡的に回避できました。ありがたい……)

  • 筆記に受かるだけなら小手先のテクニックがたくさんあります!↓下記参照

院死対策

どのぐらい対策をしたのか気になる方もいらっしゃるかと思いましたので、一応書きます。書かせてください。

6月半ばから研究活動を疎かにしそこそこに、院試対策を始めました。(これを許していただけたのは大変ありがたかったです。)
数学の知識はあまりなく、とにかく点数を取ることだけを考えました。柔らかい見た目の本を好んで買い、証明はあまり真面目におわず、定理や主張を脳内で咀嚼し圧縮した後、(TeXではなく)Typstでいわゆる「まとめ」を作りました。問題集は解答部を物理的に切り取って横に並べ、わからなければノータイムで答えを見ながら解きました。

  • 6/17~7/6 足助「線型代数学」をかいつまんで

    • ムズすぎ

  • 7/14 「線型代数演習 (基礎数学 4)」のp125~126だけ

    • このページを丸覚えするだけで線形代数のKerやImの意味不明な問題が解けるようになるため、おすすめです。(本質情報)

  • 7/14~7/22 「トゥー 多様体」を正則値定理まで

    • 松本多様体は絶対にラノベではないです。こちらのほうがよほど読むのが簡単でした。臨界点を求めるだけならヤコビ行列を計算するだけなので(「院試 (幾何)」の最終ページを丸覚えするだけで良い(本質情報))、そういった意味では読む必要は全くありませんでした。

  • 7/22~8/1? 「明解演習 微分積分」2章の覚えていないと解けないややこしい積分の一部,3章,5章の演習問題

    • 「明解演習 微分積分」「明解演習 線形代数」は恐らくサイエンス社のどの演習書よりもレベルが高いため、おすすめです。

    • 一変数関数/多変数関数の微分と微分方程式はあまり難しい問題が出そうになかったため、解きませんでした。

  • 8/2?~8/6?「イプシロン・デルタ論法 完全攻略」4-5章のみ

    • 関数列はおよそ数列の上位互換なので(???)全部ではなく後ろの方の章だけで良いと思います。

    • オリンピックを見ながらのんびりやっていました。

  • 7/28 ワンフェスに行かなかったことを大いに後悔し、代わりにコミケに行くことを固く決心しました。えっ?

  • 8/6?~8/8? 基礎問題の過去問演習

  • 8/7 ジョルダン標準形の求め方としくみを丸覚え

  • 8/11 決心は固く、コミケに行きました。

  • 8/9~8/10,8/12~8/15 「プログラミング言語の形式的意味論入門」をBekićの定理まで

    • ホーア論理の問題が簡単そうに見えたため(見えただけ)、専門科目を計算機科学でゴリ押そうと考えました。なおBekićの定理までと書きましたがBekićの定理は理解できませんでした。一部の問題について他の方にいろいろと伺いましたが、結局院試解答がないために演習もあまりできませんでした。

  • 8/18 英語の候補問題のカンペを作る

    • 興味のある内容について触れることにより解答欄を埋められるような問題がいくつかあったため、時短として一部の文章を共通化しました。

    • 自分のやる気と英語力では(地味に)半日~1日かかったので、早めにやっておくことをおすすめします。

  • 8/16~8/20 「代数トポロジーの基礎―基本群とホモロジー群」を3.10章まで

    • 解析学が理解できず、幾何が簡単そうに見えたため、幾何の勉強を始めました。簡単そうに見えただけでした。🥺

    • ホモロジーの計算にホモトピーの知識があまりいらないことを知らず、貴重な3日間をホモトピーに費やしてしまいました。

    • ほぼ必ず出題されているMayer-Vietoris完全系列をどうにか理解しようとし、試験当日の朝3時まで粘りましたが、諦めて寝ました。もっと早く寝ましょう。

その他、質問や解き直しなどで様々な方にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

前日は暗くなってから新幹線に乗りました。京都駅についた9時頃には殆どの店が閉まっており、諦めてスーパーで夕食を買いました。

名古屋駅前

他のリソース

院試体験記

過去問解答

授業資料

専門科目の問題は恐らく「元ネタ」になっている授業が存在するため、京都大学教務情報システムで「学部/大学院」を「理学部」に、「学科等」を「数学教室」にしたときの特に2ページ目の科目の「授業計画と内容」や「参考書等」は参考になると思います。

計算機科学分野の授業資料

シケプリ

佐久間さんの「極限と積分の順序交換」などは非常に役に立ちました。

おまけ

↓「合格者数と面接の日時の関係」をプロットするためのコード

import pandas as pd
import seaborn as sns
import matplotlib.pyplot as plt
import matplotlib

from pathlib import Path

# build csv files
# 1次, 2次のPDFファイルのテキストをコピーして1.txt, 2.txtに貼り付ける
t1 = Path("1.txt").read_text(encoding="utf-8")
t2 = Path("2.txt").read_text(encoding="utf-8")
t1 = t1.split("\n")
t1 = [",".join(t1[i:i+4]) for i in range(0, len(t1), 4)]
t1 = [x for x in t1 if x != "受験番号,集合日,集合時間,集合場所"]
t2 = t2.replace("QE免除 ", "").replace(" ", ",")
Path("1.csv").write_text("受験番号,集合日,集合時間,集合場所\n" + "\n".join(t1), encoding="utf-8")
Path("2.csv").write_text("受験番号,QE免除有無\n" + t2, encoding="utf-8")

# read csv files
df1 = pd.read_csv("1.csv")
df2 = pd.read_csv("2.csv")

# build data
df = pd.merge(df1, df2, on="受験番号", how="left")
display(df.iloc[0]["QE免除有無"])
df["総数"] = True
df["数学教室"] = df["QE免除有無"].apply(lambda x: x == "有り" or x == "無し").astype(int)
df["数学教室 and QE免除"] = df["QE免除有無"] == "有り"
df["数学教室 and not QE免除"] = df["QE免除有無"] == "無し"
df["RIMS"] = df["QE免除有無"].str.contains("有り|無し", regex=True).apply(lambda x: int(not x))
df["数学教室 or RIMS"] = df["数学教室"] | df["RIMS"]
df["不合格"] = df["数学教室 or RIMS"].apply(lambda x: not x)

# plot settings
sns.set_theme()
matplotlib.rcParams["font.family"] = "sans-serif"
matplotlib.rcParams["font.sans-serif"] = "BIZ UDGothic"

# plot 1
dfg = df.groupby(["集合日"])[["数学教室 and QE免除", "数学教室 and not QE免除", "RIMS", "不合格"]].sum()
dfg = dfg.iloc[::-1]
fig, ax = plt.subplots(figsize=(10, 5))
dfg.plot.barh(stacked=True, ax=ax)

# plot 2
dfg = df.groupby(["集合日", "集合場所"])[["数学教室 and QE免除", "数学教室 and not QE免除", "RIMS", "不合格"]].sum()
dfg = dfg.iloc[::-1]
fig, ax = plt.subplots(figsize=(10, 5))
dfg.plot.barh(stacked=True, ax=ax)

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