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チェコから世界、そしてイタリアへ

チェコ西部に産声をあげ、やがて世界のビールのメインストリームとなった淡色ラガー。お隣のドイツから技術を取り入れた日本の大手が作るビールも淡色ラガーですね。故郷の名を冠してピルスナーと呼ばれています。今回は、日本人に最も親しまれているともいえるスタイル、ピルスナーのお話です。

ピルスナーの元祖:ボヘミアンピルスナー

1842年、ボヘミア地方の街プルゼニ。ビールの歴史に初めて黄金色のラガーが登場します。当時の欧州で伝統的に醸されていたビールがダークカラーであったのに対し、ボヘミア地方の軟水による特徴的な黄金色の液色は一線を画すものでした。このビールはチェコ語でPlzeňský Prazdroj、ドイツ語でPilsner Urquellと呼ばれるようになります。その意味は「ピルスナーの元祖」。

Pilsner Urquell

ピルスナー・ウルケルのWebサイトのトップには"THE ORIGINAL PILSNER"の文字が誇らしげに踊ります。

乾杯の言葉「Na zdravi」は日本語にすると「健康のために」という意味になります。良いですね。グラスでテーブルをゴツンと叩いてから高く掲げるのが正式なやり方と、日本人初タップスターから教わりました。

このウルケルを代表的な銘柄とする元祖ピルスナーのスタイルがボヘミアンピルスナー。Craft Beer Channelというクラフトビール専門のYouTubeチャンネルが2021年初に公開したビデオ「Big Trends & Breweries in 2021」では、More-Czech Style Pilsnerを挙げて注目しています。

余談ですが、チェコとの国境にほど近いドイツのザクセン州ドレスデンから北東にラーデベルクという街があります。この地にはその名もズバリRadebergerという醸造所があり、ここのピルスナーはパンのような香ばしさとコク、ホップの苦味によりジャーマンよりむしろボヘミアンピルスナーに近い感想を持ちます。ビールが、国境やスタイルで切り分けられるようなものではない地続きなものであることを体現する作品と理解しています。

Radeberger Pilsner @Märkbar

ピルスナーの進化系:イタリアンピルスナー

チェコに生まれ世界を旅したピルスナーは、イタリアで新たな進化を果たしアメリカを経由して花開きます。Firestone WalkerやOxbowなどの米系ブルワリーが醸造して近年注目を集めるイタリアンピルスナー。調べていくと、その興りはイタリアはBirrificio ItalianoのTipopilsに行き当たります。Agostino Arioli氏という方が創業者で、FirestoneのMatt Bryndilson氏曰く"the Godfather of Italian craft beer"。

なんと初登場は1996年!思ったより歴史がありました。要するにドライホッピングしたラガーなわけですが、Tipopilsで使用するホップはドイツ産のノーブルホップ。様々なドイツ産ホップを試した結果、現在では主にSpalter Selectという品種を使っているとのこと。アロマティックでフルーティーなものはピルスには適さないのだそうです。以前取り上げたコールドIPAとは考え方が違うようですね。

ここまで、参考文献は以下の2点です。

The Evolution of Italian Pilsner, According to Brewers Who Defined the Style

Brewer’s Perspective: The Origins and Elements of Tipopils

そんなイタリアンピルスナーですが、国内ですと箕面ビールがOxbowとのコラボでMonkeyfistというビールを作っていました。ベアレン醸造所もThe Day Italian Pilsnerを期間限定商品としてリリースしているようです。

ヘイジーやペイストリースタウト、スムージー系のような情報量が多くてわかりやすく"映える"ビールに比べると、いまひとつ地味でしょうか。美味しいんですけどね。それでは。

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