「クラフトビールで地域振興」の落とし穴
日本経済新聞にクラフトビールについての記事がありました。
Wikipediaによりますと「信用金庫」について以下のように説明されています。
"地域社会の発展に寄与"というミッションを持った組織であるところの信用金庫の職員の方々が地元の産品をプロモートし、これを復元料としたクラフトビールを造り出す。素敵な取り組みだと思う一方で直感的に嫌な予感がしたのも事実でありまして、今回はこのネタを掘ってみたいと思います。
本稿に於ける副原料
ビール純粋令に準拠して考えればビールの原材料は麦芽、ホップ、水そして酵母。したがってこの4要素以外の素材は全て副原料と本稿では扱います。そして副原料を使用するケースをざっくり以下のように分類します。
1.味わいを追求する過程で復元料が使われる
2.副原料ありきでビールを造る
2に関して、飲み手というより造り手の側にやや問題視する向きがあるようです。ものづくりの追求結果として1に辿り着くケースがあるべき姿、と理解します。以下、地域産品を復元料として使うケース2の問題点について整理していきます。
"地域の素材を使ったビール"の問題点整理
キャッチャーでわかりやすい差別化
どこどこ産のなになに、と名乗るからには必然的にその地域の名称が入るわけで、他の地域と明確かつ簡単に差別化できます。
コピーしやすい戦略性
"(地域)産の(品目)を使ったビール"というテンプレートは容易に転用が可能です。
共感を呼びやすく批難しにくいストーリー
ある産品を取り上げるにあたり、その地域に暮らす人々ないしその地域に縁のある人々は概ね好意的に捉えるのではないでしょうか。地元のものを持ち上げられて嫌な気分にはならないでしょう。また取り上げられたことのみを以って表立って攻撃されることも考えにくい、ある意味では無敵の戦略と言えるかもしれません。
苦い記憶と今後の期待
上記より、「地域の産品を使ったビール」は言ってしまうと「安易に陥りやすく批判に曝されにくい戦略」とでもいうべきものであると考えることができます。そしてその緩やかな終末を、地ビールの勃興と衰退として我々はすでに経験しています。
もちろん、地元の素材を使用したビールが地域振興に繋がれば素晴らしいことです。が、そのためには「〇〇産の●●を使いました」だけでは不十分でしょう。副原料を使った結果としてどのような味わいを持つ商品に仕上がっているのか、その独自要素を持つ商品がどのような競争力を持つのか、が重要です。「地元のものを使っただけのちょっと変わったビール」で終わらせては勿体ないですし、注目度も一過性のものに終わるのではないでしょうか。生産者、醸造家、信金マンの皆さんの本気に期待しましょう。